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2023年3月12日 (日曜日)

タルのドラムレスのトリオ名盤

CDの時代になって、アルバム1枚単位の収録時間が、LP時代よりも飛躍的に長くなった。それに伴って、LP時代には収録されなかった、お蔵入りの演奏や他のセッションでの演奏を「ボーナストラック(略してボートラ)」として収録されることが多くなった。

すると、困ったことが起きる訳で、LP時代のオリジナル盤に収録されていなかった演奏が追加収録されて、全く違った内容のアルバムになってしまうのだ。これが厄介で、オリジナル盤の「オリジナリティー」が全く損なわれる訳で、このボートラの存在は全くの「必要悪」だと僕は思っている。未収録の演奏は未収録だけを集めた別のアルバムにしてリリースすべきだろう。

Tal Farlow『Tal』(写真左)。1956年3月、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Tal Farlow (g), Eddie Costa (p), Vinnie Burke (b)。前作まで、ピアノ入りのカルテット編成で「聴かせる」パフォーマンスだったが、この盤では、ちょっと珍しい、ドラムレスのギター・トリオの演奏になっている。

さて、デビュー当時のリーダー作でのトリオ演奏では、速弾き過ぎて多少拠れようが、難度の高いフレーズを弾き切ってしまう強引さが魅力だったが、この『Tal』では、さすがにスタジオ録音では、リーダー作の5枚目。トリオ演奏に戻しても、タルはデビュー当時の強引さを封印して、余裕のある、テクニカルな弾き回しで、スタンダード曲を魅力的に聴かせてくれる。
 

Tal-farlowtal

 
しかし、タルのフレーズは、スケールの幅が広くて、よく指が届くなあ、と感心する。いわゆる「オクトパス奏法」が炸裂、タルのギターの個性と特徴が最大限に活かされた、スタンダート曲集になっている。ベンドやエフェクターを使用しない、リアルなピッキングが、スタンダード曲の持つ美しい旋律をより一層引き立たせている。

バックのリズム隊、エディ・コスタのピアノ、ヴィニー・バークのベースも良い味を出していて、ドラムがいない分、コスタのピアノが上手くリズム&ビートの供給役をこなしていて、バーグのベースが、演奏全体のベースラインをしっかりと押さえている。ドラムレスということが全く気にならない、全く意識させない、素晴らしいピアノ+ベースのリズム隊である。

このタル・ファーロウの名盤の誉れ高い『Tal』も、CDリイシュー時(2010年だったと思う)、7曲の未収録曲が追加されて、大混乱に陥った。ドラムレスのギター・トリオの傑作、というのが、この『Tal』の定評だったが、追加された未収録曲は、1958年2月NY録音のカルテットの演奏が追加されていたのだ。初めてこのCDリイシューの『Tal』を聴いた人は、それまでの『Tal』の評論文を読んで、かなり戸惑ったのではないか。

もともとのLP時代のオリジナル盤は、先頭の「Isn't It Romantic?」から「Broadway」までの全8曲が、正式な収録曲になる。この8曲が、1956年3月、NYでの録音。そして、以前より名演と言われる「ドラムレスのギター・トリオの演奏」になる。オリジナル盤同様、この8曲に絞ったCDリイシュー、サブスク音源もあるので、『Tal』を純粋に鑑賞しようというのであれば、このオリジナル盤と同じ収録曲、曲順のものが良いだろう。

 

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