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2023年3月11日 (土曜日)

ジャズ喫茶で流したい・260

小粋なジャズ盤を探索していると、我が国のジャズ・シーンでは、ほとんど名前が売れていないジャズマンの好盤に出くわすことが多い。

こんなに優れたアルバムを出すジャズマンを僕はこれまで知らなかったのか、と思って慌ててネットでググって見ると、ほとんどが、ビッグバンドで長年活躍していたり、サイドマンがメインで活躍していたジャズマンで、ビッグバンドなど所属するバンドの中に埋没して、その個人名が表面に出てこないのだ。

David Kikoski『Sure Thing』(写真左)。2016年2月3日、ブルックリンでの録音。ちなみにパーソネルは、David Kikoski (p), Boris Kozlov (b)。耽美的でリリカル、バップでモーダルなデヴィッド・キコスキーのピアノと、堅実実直なボリス・コズロフのベースとのデュオ作品になる。

デヴィッド・キコスキーは、1961年、ニュージャージ生まれのジャズ・ピアニスト。今年で62歳のベテランである。1985年辺りから、NYで活動。様々な人気ジャズマンのグループに参加、特に、ミンガス・ビッグ・バンド等の活躍がよく知られるピアニストとのこと。僕はランディ・ブレッカーのグループで、キコスキーの名前を薄らと覚えているが、彼のピアノをじっくりと聴いたことはなかった。

本作は全8曲。キコスキーのオリジナルが4曲、その他の曲は、ジャズメン・オリジナルやスタンダード等。ベースのコズロフは、キコスキーと同じ、ミンガス・ビッグバンドの一員で、ビッグバンドの活動の中で共演している、お互いのことを良く知った間柄。まず、キコスキーのオリジナル曲では、キコスキーとコズロフの2人が、素敵なアレンジの下、お互いの音をよく聴き、お互いの音を引き立たせ、適度なテンションの中、気心知れた即興演奏の妙を繰り広げている。
 

David-kikoskisure-thing

 
ジャズメン・オリジナルは、チック・コリアの「Quartet #1」、ジョン・コルトレーンの「Satellite」を取りあげている。どちらの曲も「ピアノとベースのデュオでやる曲か」と思ったが、聴いてみて、とても上手くアレンジされていて、原曲の雰囲気も残っていて、デュオ演奏としても秀逸。スタンダード曲は「Sure Thing」。これもなかなかにマニアックな選曲だと思うのだが、バップっぽく演奏されていて、これも良い出来だ。

そして、ビックリしたのが「Fugue from “The Endless Enigma”」。聴いていて「これは昔かなり聴いた曲、これはロック」と思って、しばらく聴いていて、エマーソン・レイク&パーマー(EL&P)の4th.盤『Trilogy(トリロジー)』の中の「永遠の謎」であることに気がついた。即、ネットで調べて見て「ビンゴ!」。このフーガは注目度大。

資料によると、『Trilogy(トリロジー)』は、キコスキーが 12~13歳の頃のお気に入りのアルバムで、ロック・ミュージシャンがブルースやロックンロール、ブギウギやクラシックまでを演奏することに感動、自分もそのようなキーボード奏者になりたかったそうだ。いつかこの曲を演奏をしたかったとのこと。

このEL&PのFugue from “The Endless Enigma”」、キコスキーが言うように、かなりこの曲を聴き込んでいたのが、とても良く判る。原曲のイメージをしっかり押さえつつ、ジャズ化〜デュオ化のアレンジも秀逸、ジャズらしくアドリブ展開も良好、ロック曲の単なるカヴァーでは無い、良好にジャズ化されている。

キコスキーのピアノと、コズロフのベースとのデュオ演奏だが、キコスキーのピアノが前面に出ていて、キコスキーのピアノの個性がじっくりと味わえるバランスになっている。コズロフはキコスキーのフロントとしての演奏のベースラインと、演奏全体のリズム&ビートのコントロールを担っていて、地味ではあるが、堅実なベースで、このデュオ演奏に貢献している。

良いデュオ盤です。ジャズ盤紹介本や、ジャズ雑誌にそのタイトルが上がることがほぼ無い、それでいて、こういう優れた内容のジャズ盤がまだまだ沢山あると思ってます。小粋なジャズ盤の探索は止められませんね。
 
 

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