「和製のヴァイブの新人」出現
我が国のジャズ・シーンにおいても、コンスタントに有望新人が出ている。何時頃からか、そう、21世紀に入って、2002年、ピアニスト山中千尋が初リーダー作を出した頃から、一気に将来有望な新人がどんどん出てきた。商業主義が反映されたボーカルを除けば、どの楽器でも、出てきた新人の多くは、今でも中堅として活躍している。
吉野智子(Tomoko Yoshino) Quartet『Kaleidoscope』(写真左)。2023年1月のリリース。ちなみにパーソネルは、吉野智子 (vib), 雨宮彩葉 (p). 鉄井孝司 (b), 小田桐和寛 (ds)。パーソネルを見渡して、リーダーの吉野智子を含め、僕にとっては初見のメンバーばかり。特に、リーダー吉野の担当楽器は「ヴィブラフォン」。
吉野智子。東京都出身。10歳よりマリンバ、国立音楽大学に進学し、本格的に打楽器全般を演奏し始める。在学中、第13回JILA音楽コンクールマリンバ部門第1位を獲得。同大学ビッグバンド・サークルに所属しヴィブラフォンを担当、第40.41回山野ビッグバンドコンテストにて最優秀賞受賞。ジャズヴァイブ・作曲を赤松敏弘に師事。
アマチュア・ビッグバンド所属のヴァイブ担当が独立して、プロのヴァイビストになった訳で、確かに、吉野のヴァイブは素姓が良い。
音の個性としては、ファンクネスは皆無。硬質で透明度の高い音で、ヴァイブの音の質としては、4本マレット奏法を駆使している面も含めて「ゲイリー・バートン」に通じるものがある。音がバートンよりも暖かい感じなので、いわゆる「温和なバートン」という雰囲気。
ヴァイブのパフォーマンス自体は申し分無い。テクニックも優秀、弾き回しは流麗。アドリブ展開のスピード感も十分、速いパッセージは切れ味良く、スローなフレーズは歌心十分。初リーダー作とは思えない、完成度の高いヴァイブである。全9曲中、7曲が自作曲で、これがまた出来が良い。作曲の才能にも注目したい。
演奏全体の雰囲気は、モード奏法がメインの「ネオ・ハードバップ」。特にモーダルな展開は、過去の成果を踏まえながら、現代ジャズの響きを湛えていて立派。即興演奏のフレーズには淀みが無く、ポジティブな響きで清々しい。特にスタンダード曲の「I Hear a Rhapsody」では、アレンジが従来のジャズには無いユニークなもので、アレンジ能力も良さも垣間見える。チャレンジ精神も旺盛。
初デビュー作としては申し分の無い出来。吉野のヴァイブの個性も良く判るし、コンポーズ&アレンジの才能も注目に値する。特に、ジャズ演奏の絶滅危惧種の1つである「ヴィブラフォン」を担当する、将来有望な新人の出現である。次作についても、しっかりと見守っていきたい。
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