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2023年3月24日 (金曜日)

ベテランのネオ・ハードバップ

Smoke Sessions Records(以降、Smokeと略)。1999年、NYのアッパーウエストにオープンしたジャズクラブ「Smoke」のオーナーが、2014年に設立したジャズ専門レーベル。

「Smoke」に出演している人気アーティスト(ベテランが主)の録音を中心に「ポスト・バップ・ジャズ」、「メインストリーム」系のオーソドックスな作品が中心。今後のジャズシーンを担うであろう若手のリーダー作も積極的にリリースしている。

最近、Smokeのリリースするアルバムを良く聴く。これまで第一線を走ってきたベテラン・ジャズマンをメインにリーダー作を作成していて、モード・ジャズ、ネオ・ハードバップなど、ポスト・バップ〜メインストリーム系の純ジャズがメイン。

メンバーの選定も優秀。特に、このベテランのリーダー作が良い味を出している。感心するのは、昔の演奏をなぞるのでは無い、現代の新しい響きのモード・ジャズ、ネオ・ハードバップを表現していること。

そんな現代の新しい響きのモード・ジャズ、ネオ・ハードバップを、第一線を走ってきたベテランのジャズマンが、余裕と深みを持って、粛々と演奏する。その音世界は、現代のジャズの新しい響きを宿しているにも関わらず、決して尖ってはいない。燻し銀の如く「渋く」、堅実で余裕を持ったリズム&ビートは、決して「走る」ことは無い。それでいて、演奏のレベルは高く、テクニックも優秀。若手ジャズマンには出せない、年齢と経験の深さを基にした、クールで深みのある純ジャズである。

Bobby Watson『Back Home in Kansas City』(写真左)。2022年4月5日、NYでの録音。Smokeからのリリース。ちなみにパーソネルは、Bobby Watson (as), Jeremy Pelt (tp), Cyrus Chestnut (p), Curtis Lundy (b), Victor Jones (ds)、そして、ゲストに、Carmen Lundy (vo)。リーダーのボビー・ワトソンのアルト・サックスとジェレミー・ペルトのトランペットがフロント2管のクインテット編成が基本。
 

Bobby-watsonback-home-in-kansas-city

 
リーダーのボビー・ワトソンは、1953年カンザス州生まれ。今年で70歳になるベテランのアルト・サックス奏者。1977〜1981年、アート・ブレイキー& ジャズ・メッセンジャーズに在籍。メロディセンス溢れるプレイや作曲能力で人気を博した。メッセンジャーズを脱退後は自己のバンド“Bobby Watson & Horizon” を中心に、様々なセッション等で活躍。伝統的で安定したメインストリームな、歌心を湛えたアルト・サックスを吹くところが僕は好きだ。

この盤は、コロナ禍の中、故郷カンザスシティに思いを馳せた、ストレート・アヘッドな純ジャズ盤である。全11曲、全て、モード・ジャズ、ネオ・ハードバップな演奏で占められる。モーダルなフレーズが心地良いのだが、このモーダルなフレーズが全く古くない。「どこかで聴いた事がある」感が全く無く、新しい響きに満ちている。これには感動した。新伝承派のモード・ジャズなどは、もう遠い過去のものになったなあ、と改めて思った。

ボビー・ワトソンのアルト・サックスは絶好調。余裕があって流麗で歌心満点。音はブリリアントで、ブラスが良く鳴っている。この溌剌としたアルト・サックスが、今年70歳の大ベテランが吹いているとは。しかし、パフォーマンス全体を覆う「余裕と大らかさ」は若手には出せない「味」である。そして、中堅トランペッターのジェレミー・ペルトが、ワトソンのアルト・サックスにしっかり寄り添っていて、フロント2管をしっかりと盛り立てている。

ピアニストのサイラス・チェストナット、ベーシストのカーティス・ランディ、ドラマーのビクター・ジョーンズ。このリズム・セクションがとても良い。特に、サイラス・チェスナットの仄かにファンキーでモーダルなピアノが効いている。ベースとドラムが堅実にリズム&ビートをキープする中、チェスナットの歌心溢れるピアノが、歌心溢れるワトソンのアルト・サックスを鼓舞し引き立てる。ワトソンのアルト・サックスとチェスナットのピアノとの相性の良さ。メンバー選定の勝利である。

ジャズの演奏トレンドの中でも歴史があるモード・ジャズ、ネオ・ハードバップな演奏で占められているが、古さを全く感じ無い、逆に、新しさを感じる、新しい響きを感じる「不思議な魅力」を湛えた、聴き応え十分の好盤です。
 
 

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