桑原あいの10周年記念ライヴ盤
「Disc Grand Prix 年間グランプリ」を眺めていて、このピアニストの名前が目に入った。「桑原あい」。ジャズ・ピアニスト。1991年生まれ。そろそろ、ジャズ・ミュージシャンとしては、まだまだ若手。
幼い頃より、天才エレクトーン少女として頭角を現し、中学生後半よりピアノに転向。2012年5月、完全セルフ・プロデュースによる初リーダー作、桑原あい Trio Project『from here to there』をリリース。実は、僕はこの「桑原あい」については、デビュー盤から、リーダー作をほぼ聴き続けているクチである。
彼女のピアノは、明確に「日本人のジャズ・ピアノ」。ファンクネスは希薄、端正で切れの良いオフビートでジャジーな雰囲気を醸し出し、芯の入った繊細でロマンティシズムが仄かに香るタッチと流れる様な弾き回しが特徴。チック・コリア、ブラッド・メルドーに通じるリリカルで切れ味の良い、現代音楽に通じる硬質なタッチが個性。
桑原あい ザ・プロジェクト『Making Us Alive』(写真左)。2022年4月から7月にかけて、全国4ヶ所で開催した「Recording Tour 2022 “Live Takes”」を全編録音し、その中からベスト・テイクを厳選して収録。ちなみにパーソネルは、桑原あい (p), 鳥越啓介 (b), 千住宗臣 (ds)。桑原あいデビュー10周年記念作。日本全国で繰り広げた白熱のトリオ・ライヴ盤である。
真面目である。真摯である。とにかく、息をつく間もない、「真面目で真摯」でストイックなジャズが展開される。聴き手の期待する「コンテンポラリーな純ジャズ志向」のパフォーマンスを堅実に実行している。
なんせ、冒頭の曲が、あのデューク・エリントンの「Money Jungle」である。こんなに硬派で玄人好みの選曲があるだろうか。このエリントンの名演を、桑原なりに解釈し、桑原オリジナルの「Money Jungle」になっている。いや〜、硬派やなあ。
全編ストイックでコンテンポラリーな純ジャズ、正統派のメインストリーム・ジャズで埋め尽くされる。選曲がユニークで、ルー・リードの「Pale Blue Eyes」や、ローリング・ストーンズ「She's a Rainbow」、ウエストサイド・ストーリーから「Cool」、歌劇カルメンから「Habanera」など、他のジャズ・ミュージシャンが選ばない曲を、個性的なアレンジで、なかなか洒落たカヴァーに仕立て上げている。
途中、現代音楽風にアブストラクトに展開したり、フリーに展開したりするところがあるが、これはちょっと「肩に力が入り過ぎ」かな。全編、かなり真面目で真摯でストイックなジャズで統一されているので、硬派にアブストラクトやフリーに展開するなら、ちょっとポップに、ちょっとソウルフルに展開した方が良いアクセントになるんではないかなあ、と思った次第。
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