ベツレヘムならではの企画盤
ベツレヘム・レーベルのハードバップなインストの優秀盤は、他のレーベルに比べて、ちょっとユニーク。米国東海岸ジャズと西海岸ジャズの要素がほどよく融合して、独特の雰囲気のハードバップが成立している。例えば、この企画盤に詰まってる音は、ベツレヘムならではの音作りになっていて、とても面白い。
『Winner's Circle』(写真)。1957年9月,10月の録音。ちなみにパーソネルは、以下の通り。
奇数曲(1957年9月録音)ー Art Farmer (tp), Rolf Kühn (cl), Eddie Costa (vib), Kenny Burrell (g), Oscar Pettiford (db), Ed Thigpen (ds)。
偶数曲(1957年9月録音)ー Donald Byrd (tp), Frank Rehak (tb), Gene Quill (as, 2.のみ), John Coltrane (ts), Al Cohn (bs), Eddie Costa (p), Freddie Green (g, 2.のみ), Oscar Pettiford (db), Ed Thigpen (ds, track:2 を除く), Philie Jo Jones (ds, track:2 only)。
Winner's Circle。競馬用語では「勝ち馬表彰式場」。直訳だと「勝者の輪」。この盤の制作経緯を読むと、ダウンビート誌が1957年に発表した批評家の投票結果を基にメンバー選定して録音に臨んだ企画盤とのこと。
ただし、各楽器毎の一位のジャズマンばかりが選ばれている訳では無い。この盤でその存在がクローズアップされるジョン・コルトレーンはテナー・サックス部門で2位。ベース部門では、オスカー・ペティフォードが1位。ペティフォードは全8曲に参加していて、この企画盤、ペティフォード名義でも良かったのでは、とも思う。
冒頭「Lazy Afternoon」の演奏を聴けば、米国西海岸ジャズか、と思うだろう。エディ・コスタの硬質で透明感溢れるヴァイブのフレーズが心地良い。アート・ファーマーもトランペットもリリカルで流麗。ケニー・バレルのギターは漆黒アーバンでファンキーな響き。アレンジもシンプルで秀逸。しっかりアレンジされた、聴かせるジャズ。米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚である。
2曲目の「Not So Sleepy」は、フロント楽器の担当が東海岸のメンバーがメイン。でも、出てくる音は、どちらかと言えば、西海岸ジャズの雰囲気濃厚。お目当てのコルトレーンは、ゆったりしたミッドテンポに乗って、演奏の西海岸ジャズの雰囲気に似使わない、ゴツゴツとした硬いフレーズに終始する。
この盤でのコルトレーンは8曲中の4曲のみ参加、かつ、フロント4管構成の1つなので出番は極めて少ない。大凡は「普通の何の変哲も無いフレーズ」を吹いていく。この盤でのコルトレーンは発展途上と聴いた。聴きどころは殆ど無い。が、LP時代、日本のレコード会社は、この企画盤をコルトレーン名義として発売している。呆れた商業主義である(笑)。
それでも、コルトレーン以外のメンバーは、西海岸ジャズの雰囲気に乗って、情感豊かでリリカルなフレーズを紡ぎ上げている。演奏全体の雰囲気は良い。
以降、ラストの「Turtle Walk」まで、ミッドテンポが中心の、米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚な演奏が続く。演奏自体はハードバップ。アレンジ良し演奏良し、聴かせるジャズ、聴いて楽しいジャズが小粋に展開されている。
「Winner's Circle(勝者の輪)」なんてタイトルが付いているので、批評家の投票結果の上位者が集まって、丁々発止とバトルを繰り広げるジャム・セッション集かと思ったら、米国西海岸ジャズの雰囲気濃厚な、しっかりアレンジされた、聴かせるジャズが展開されているので、初めはちょっと面食らう。
米国の東海岸と西海岸の両方にオフィスを構え、東海岸と西海岸、どちらに偏ることも無く、双方のジャズマンのリーダー作をリリースしていたベツレヘム・レーベルならではの優秀盤といえるだろう。ベツレヘムのハードバップはユニークなものが多い。
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