硬質で尖ったチックの鍵盤楽器
当ブログで「チックのフリーへの最接近」の一連の記事の中で、チックとブラックストンが結成した「Circle(サークル)」。チック率いるリズム・セクションの奏でる「限りなく自由度の高いモーダルな演奏」と、ブラックストンのリード楽器が奏でる「完全フリーな演奏」の融合を図ったバンドだったが、その融合のチャレンジは想像する以上に無理があったと思われる、と語った。
では、チック率いるリズム・セクションの「限りなく自由度の高いモーダルな演奏」はどんな内容のものだったのか。それは2枚のチックのリーダー作に残されている。
Chick Corea『The Song of Singing』(写真左)。1970年4月7, 8日の録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p, key), Dave Holland (b), Barry Altschul (ds)。パーソネルを見れば、このチック率いるトリオは、「Circle(サークル)」のリズム・セクションそのもの。
当初リリースは全6曲だったが、CDリイシューの度にボートラが追加され、1987年リイシュー時は全8曲。1989年リイシュー時は全9曲。ちなみにどのバージョンを聴いても、その内容に優劣は無い。どのバージョンのアルバムを入手しても、「限りなく自由度の高いモーダルな演奏」は如何なるものだったかを感じ取る事が出来る。
今でもこの盤は「チックのフリー・ジャズ」として捉えられている向きがあるが、これはフリー・ジャズでは無い。
フリー・ジャズって、①音階(キー)から、②コードあるいはコード進行から、③ハーモニーから、④リズムから、の束縛から逃れる、いわゆる「フリー」になって演奏するジャズ演奏の事なんだが、このチック盤は①〜④まで、何れの要素の束縛からは逃れていない。
時々、フリーなインプロに走る瞬間もあるが、演奏の基本は「限りなく自由度の高いモーダルな演奏」。この盤で聴けるフリーなインプロは、確実に現代音楽の要素を踏襲していて、いわゆる「フリー・ジャズ」な表現とは異なる。モードからフリーへ走る瞬間も、フリーからモードへ戻る瞬間も、きっちり「予定調和」していて、明らかに「調性音楽」な内容である。
といって、この盤の「限りなく自由度の高いモーダルな演奏」はとても優れている。これだけ硬派で尖ったモーダルな演奏は当時見当たらない。特にチックのピアノは凄い。確実にこの頃のチックは「キレて」いる。プツンとキレて、硬質で尖った、それでいてハイテクニックで流れる様な、妖気溢れるモーダルなフレーズを弾きまくっている。
その妖気溢れるモーダルなフレーズは、ショーター作曲の名曲「Nefertiti」で最高潮に達する。もの凄い鬼気迫る弾き回し。それでいて「クールでヒップ」。そんなプツンとキレて、硬質で尖ったチックの鍵盤楽器が聴けるのは、この盤が最右翼だろう。
当時、マイルスがチックを重用し、チックの悪口は絶対に言わなかった事が何となく判った様な気がした『The Song of Singing』である。
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