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2023年1月 4日 (水曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・22

ジャズ・ピアノの「最高のスタイリスト」ビル・エヴァンスは、1958年にマイルス・デイヴィスのバンドに短期間加わり、約1年弱、録音とツアーを行っている。その最大の成果が、Miles Davis『Kind of Blue』。マイルスと協働し、ハード・バップ的な頻繁なコード・チェンジではなく、モードを基にしたアドリブ展開を、このアルバムで実現している。

その後、1959年にエヴァンスはドラマーのポール・モチアンとベーシストのスコット・ラファロをメンバーに、自らがリーダーのパーマネントなトリオを初めて結成する。このトリオは、ピアノ・ベース・ドラムスの、各自の創造的な三者三様のインプロを展開する「インタープレイ」を実現した初めてのトリオであり、以降、他のピアノ・トリオ演奏に新しい方向性を与えている。

その最初のスタジオ録音の成果が、Bill Evans『Explorations』であり、Bill Evans『Portrait in Jazz』である。そして、ライヴ録音の成果が以下の2枚である。特に、このライヴ録音の2枚は、このライヴ録音の11日後、ラファロが交通事故で急逝してしまったので、当時から劇的な印象を残している。

Bill Evans『Sunday at the Village Vanguard』(写真左)、Bill Evans『Waltz for Debby』(写真右)の2枚が、そのライヴ録音の成果である。1961年6月25日の録音。ちなみにパーソネルは、Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)。NYの老舗ライヴハウス、ヴィレッジヴァンバードでのライブ録音。

天才ベーシスト、スコット・ラファロが11日後に急逝しているので、ラファロへの感情移入が激しいこの2枚のライヴ盤であるが、冷静になって聴き直してみる。

まず、『Sunday at the Village Vanguard』は、僕は、ピアノ・ベース・ドラムスの、各自の創造的な三者三様のインプロを展開する「インタープレイ」のライヴの記録だと理解している。
 

Sunday-at-the-village-vanguard_waltz-for

 
ラファロのベースばかりがクローズアップされた評価が目に付くが、エヴァンスのピアノも、モチアンのドラムも充実している。これだけ自由度の高いインタープレイは、当時としては唯一無二。適度なテンションの下、三者三様の創造的なインタープレイはそれはそれは見事で、そんな中でもラファロのベースが特に目立つ。

『Waltz for Debby』については、エヴァンスのピアノの「耽美的でリリカルで静的」な面がクローズアップされた、とされるアルバムだが、これについては、僕は、マイルスの下で「ものにした」モード奏法をこの「伝説のトリオ」で実現した唯一のライヴの記録だと理解している。

もともと、エヴァンスは「明確なタッチのバップなピアノ」が持ち味で、「耽美的でリリカルで静的なピアノ」が持ち味では無い。この盤での「耽美的でリリカルで静的」な響きが溢れる演奏でも、エヴァンスのタッチは明確で鋭い。決して、響きを重視した耽美的なタッチでは無い。

この『Waltz for Debby』における「耽美的でリリカルで静的」な雰囲気は、マイルスの『Kind of Blue』のラスト「Blue in Green」に通じる響きだと理解していて、モーダルな演奏の特徴、ビルがマイルスの『Kind of Blue』のライナーノーツで日本古来の水墨画を例に表現した「モード奏法を基にした即興の個の表現」を、この「伝説のトリオ」で表現したものではないか、と思っている。

最後にまとめると、このビルの「伝説のトリオ」のスタジオ録音『Portrait in Jazz』『Explorations』の2枚で表現した、ピアノ・ベース・ドラムスが創造的な三者三様のインプロを展開する「インタープレイ」と、マイルスの下でものにした「モード奏法」をライヴで実現した傑作、と僕は評価している。一期一会の即興演奏であり「ライヴ演奏」であるが故に、この2枚は、後世のピアノ・トリオ演奏に新しい方向性を与えている、と理解している。
 
 

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