チックの「フリーへの最接近」3
チックがブラックストンと出会って結成した「Circle(サークル)」というクインテット。僕がジャズ者初心者の頃のジャズ盤紹介本では「チックがフリーに走って失敗したバンド」なんて書いていたが、よくよく聴くと失敗バンドなんてとんでもないと思う。まあ1年足らずで解散したバンドなので「失敗バンド」なイメージが湧くのだろうが、ジャズの世界では、そもそも長く続くパーマネントなバンドは数が少ない。
即興演奏をメインとするジャズである。メンバーを固定して、バンドの音志向を固定したら、マンネリに陥るリクスは高まるだろうし、ジャズマンも人間である、飽きも来るだろう。即興演奏をイマージネーション豊かにやるには、まず演奏を楽しく、モチベーション豊かであることが大切だと思うので、そういう意味で、そもそも長く続くパーマネントなバンドは数が少ないのだろう。
Circle『Paris Concert』(写真)。1971年2月21日、パリでのライヴ録音。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Anthony Braxton (reeds, perc), Dave Holland (b, cello), Barry Altschul (ds, perc)。アンソニー・ブラックストンが1管フロントのカルテット編成。
CDの時代になって、Ciecleの諸作はリイシューされる機会が僅少で、何とか入手出来る音源はこのライヴ盤しか無かった時期が長く続いた。このライヴ盤でチックの伝説のバンド「Circle(サークル)」を体験する訳だが、これがジャズ評論家の方々が言う「チックのフリー・ジャズ」として聴くと「???」。確かにところどころでフリー・ジャズっぽい展開はあるにはあるが、良く聴くとこれはフリー・ジャズじゃない。
フリー・ジャズって、①音階(キー)から、②コードあるいはコード進行から、③ハーモニーから、④リズムから、の束縛から逃れる、いわゆる「フリー」になって演奏するジャズ演奏の事。
このチックの「Circle(サークル)」サウンドって「限りなく自由度の高いモード・ジャズ」がメインで、フリー・ジャズに走る時は、どちらかといえば「前衛音楽のマナーを踏襲した即興演奏」で純粋なフリー・ジャズでは無いと感じている。
そして、ブラックストンのリード楽器だけが、フリー・ジャズの前提を踏襲していて、チック率いるリズム・セクションが奏でる「前衛音楽のマナーを踏襲した即興演奏」とは、全く噛み合わない。この噛み合わないところに「張りつめた様な緊張感を生んでいる」とされ、「スリリングな演奏」とされた訳だが、それはちょっと、聴き手側の勝手な解釈なんでは、と思ってしまう。
ブラックストンからすると「皆、フリー・ジャズやってよ」なんだろうし、チック率いるリズム・セクションからすると「あれれ、フリー・ジャズと前衛音楽って、似て非なるものやったんや〜」なんだったと思う。ブラックストンは現代音楽の影響を強く受けたフリー・ジャズなリード奏者とされるが、実は根っからのフリー・ジャズ志向のリード奏者だったことがこのライヴ盤を聴いていて良く判る。
恐らく、チックもブラックストンも「フリー・ジャズと前衛音楽って、根っこは同じ」と思ったんだろうし、お互い「現代音楽の影響を強く受けている」と思ったんだろうし、「Circle(サークル)」結成当初は「イケる」と感じていたんではないか、と思う。しかし、やってみて、限りなく自由度の高いモーダルな演奏と完全フリーな演奏との混在は想像以上に無理があった、ということが実際に判ったのだろう、と想像している。
そう解釈すれば、この『Paris Concert』というライヴ盤、チック率いるリズム・セクションの「限りなく自由度の高いモード・ジャズ」がメインで、モード・ジャズの自由度を最大限に追求して突き詰めていったら「前衛音楽のマナーを踏襲した即興演奏」に展開するのが一番当たりが良い、という演奏志向を前提としたインプロビゼーションの素晴らしさを心ゆくまで愛でることの出来る盤だということになる。
ブラックストンには悪いが、モード・ジャズを突き詰め、前衛音楽マナーのフリーな展開をバリバリ弾きまくる、若き尖ったチックは魅力的。そして、それに追従するホランドの重量感溢れるベースと、限りなく自由でポリリズミックなアルトシュルのドラムも実に良い。ということで、このライヴ盤は、チック率いる、尖ったリズム・セクションを愛でる盤、という結論になる。
何度も言うが、ブラックストンには悪いと思っている。ブラックストンは、この「Circle(サークル)」の後、優れた完全フリー・ジャズなリーダー作を何枚もリリースしているので、ブラックストンについては、こちらを聴いて、彼の優れた資質と個性を愛でている。
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