ジャズ喫茶で流したい・255
ジャズの関連本などで紹介されていて、名前は知っているのだが、リーダー作をまともに聴いたことが少ないジャズマンに出会った。クレア・フィッシャー(Clare Fischer)である。
1928年10月22日ミシガン州デュランド生まれのピアニスト、アレンジャー。1962年のリーダー作『First Time Out』で高評価を得ている。メインストリーム・ジャズばかりでなく、ポップなラテン・ジャズやボサノバ・ジャズも演奏し、多くのリーダー作ををリリースしている。ちなみに、ハービー・ハンコックに大きな影響を与えたジャズマンの1人とされる。
1970年代以降、オーケストラのアレンジなども手掛けるようになり、R&Bやロック畑のチャカ・カーン、ポール・マッカートニー、セリーヌ・ディオン、そしてプリンス等、多くのR&Bやロック畑のアーティストとコラボしている。僕は、クレア・フィッシャーについては、こちらのR&Bやロック畑のアーティストとの協働の印象の方が強い。
Clare Fischer『Surging Ahead』(写真)。1963年の録音。米国ウエストコースト・ジャズのメイン・レーベルのひとつ「Pacific Jazz」からのリリース。ちなみにパーソネルは、Clare Fischer (p), Albert Stinson (b, #1-4), Colin Bailey (ds, #1-4), Ralph Pena (b, #5-7), Larry Bunker (b, #5-7), Gary Peacock (b, #8), Gene Stone (ds, #8)。
パーソネルはちょっと複雑だが、気にすることは無い。ベースとドラムのリズム隊は、リズム・キープにほぼ専念していて、担当が代わっても、大きく音が変化することは無い。このトリオ盤は、クレア・フィッシャーのピアノだけを前面に押し出した、クレア・フィッシャーのピアノだけを愛でる為にあるトリオ盤である。
録音年は1963年だが、フィッシャーのピアノはオーソドックスなバップ・ピアノ。ところどころ、モードに展開するところやアブストラクトにブレイクダウンするところはあるが、概ね、伝統的なバップ・ピアノな弾き回すに終始している。しかし、これが意外と新鮮に響くのだからジャズは面白い。
演奏全体の雰囲気は、米国のウエストコースト・ジャズな雰囲気で、音はカラッと乾いていて、響きは流麗。しかし、ウエストコースト・ジャズ特有の「聴かせるアレンジ」「アーティスティックなアレンジ」の形跡はほどんど無く、どちらかと言えば、東海岸のバリバリ弾きまくるバップ・ピアノの雰囲気なのだ。収録曲8曲のうち、フィッシャーの自作曲は1曲のみ、他は小粋なスタンダード曲が選曲されていて、聴き心地がとても良い。
但し、テクニックのレベルは、フィッシャーは勿論のこと、リズム隊のメンバーも併せて高く、流麗な弾き回しはとても端正で爽快感がある。この辺は、ウエストコースト・ジャズの雰囲気。加えて、ファンクネスは希薄。爽快なウエストコースト・ジャズにおける「バップ・ピアノ」という感じがユニークに響く。
良い感じのピアノ・トリオ盤。爽快なウエストコースト・ジャズにおける「バップ・ピアノ」が聴き心地が良くて、聴き始めると、ついつい引き込まれて、一気にラストの「Without a Song」まで聴き切ってしまう。クレア・フィッシャーを体験するのに好適なトリオ盤です。
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