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2022年12月26日 (月曜日)

僕なりのジャズ超名盤研究・20

ジャズ盤には、我が国のジャズ者だけにウケて、他国では全く知られていない盤が結構ある。例えば、ブルーノートの「女性の足元ジャケ」で有名な、Sonny Clark『Cool Struttin'』がそうで、我が国のジャズ者の方々の中では知らぬ者はいない位の人気盤だが、本場米国では全く知られていない。そもそも、リーダーのピアニスト、ソニー・クラーク自体がマイナーな存在。

このエピソードはジャズ雑誌で読んで、最初は「眉唾」と思っていたのだが、実際に米国にビジネス出張に行った折、先方のキーマンの1人が大のジャズ好きで、通訳を通して色々な話をさせて貰ったのだが、確かに、Sonny Clark『Cool Struttin'』については「?」だった。そして、Mal Waldron『Left Alone』もそうだった。しかし、その後、彼もこの2枚を聴いたらしく、「どちらも、なかなか良いハードバップ盤だ、ありがとう」という電子メールが届いたのを覚えている。

Mal Waldron『Left Alone』(写真左)。1959年2月24日の録音。ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p), Jackie McLean (as :track 1のみ), Julian Euell (b), Al Dreares (ds)。マル・ウォルドロンのビリー・ホリディ追悼盤。基本はピアノのマルがリーダーのトリオ。1曲目の「Left Alone」のみ、アルト・サックスのジャッキー・マクリーンが客演している。

我が国ではこのマルの『Left Alone』は大人気盤で、ジャズ初心者向けのジャズ名盤紹介には必ずといっていいほど、この盤のタイトル名が上がってくる。しかし、である。それぞれの評論文を読むと、1曲目のタイトル曲「Left Alone」の「泣きのマクリーン」だけが絶賛されていて、この1曲だけで名盤扱いされているフシがある。確かにマクリーンのアルト・サックスは情感溢れ力強く、聴き応えのあるブロウなのだが、この盤のリーダーはマルであり、マルはピアニストである。

まず、この有名なタイトル曲「Left Alone」では、伴奏上手なマルのピアノが堪能出来る。なるほど、かの伝説の女性ジャズ・ボーカリスト、ビリー・ホリディがマルを伴奏者に指名したのが良く判る。情感を込めて唄う様にアルト・サックスを奏でるマクリーンに対して、絶妙なバッキングで応えるマル。この「伴奏のマル」は聴きもの。
 

Mal_left_alone_1

 
2曲目以降はマルがリーダーのピアノ・トリオの演奏になる。2曲目の「Catwalk」は名演だろう。なぜか、ジュリアン・ユールのベースとマルのピアノの絡みが良い感じなのだ。アル・ドリアースのドラムはあまり目立たないのだが。そうそう、「Catwalk」は曲自体も良い感じ。マルの作曲能力の高さを感じる。

が、である。3曲目の「You Don't Know What Love Is」から「Minor Pulsation」、演奏ラストの「Airegin」まで、内容的に悪くは無いんだが、なんだか演奏が重い。もう少し溌剌と、もう少し躍動感があっても良いと思うのだが、どうも良くない。この盤については、ベースとドラムのリズム隊のパフォーマンスに物足りなさを感じるのだが、このリズム隊がマルのピアノに上手く反応出来ていないというか、マルのピアノについていっていないのが惜しい。

そして、ラストのトラックには、マルが最晩年のビリー・ホリデイの伴奏者だったこともあってか、ビリー・ホリディの思い出についての「マルの語り」が収録されている。マルがとうとうとビリーについての思い出を語っているのだが、当然、英語で語っているので、ほとんど何を語っているのかが判らない。日本盤についても「対訳」が付いている訳でも無い。LP時代、この盤を入手して初めて聴いた時、このラストの「マルの語り」が出てきた時はビックリした(笑)。

このMal Waldron『Left Alone』について、名盤扱いされているのは、冒頭のタイトル曲「Left Alone」でのジャッキー・マクリーンのアルト・サックス、いわゆる「泣きのマクリーン」の素晴らしさだけがその理由で、マルの名盤、名演については他に沢山ある。

確かに、冒頭の「Left Alone」については、「泣きのマクリーン」の素晴らしさ故、ジャズ者であれば一度は聴いておく必要はあるかとは思う。しかし、2曲目以降については、決して、マルの代表的なパフォーマンスでは無いことを考慮しておく必要がある。ちょっと「こまったちゃん」な盤である。
 
 

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