« ブルー・トレイン 65周年記念盤 | トップページ | Weather Report (1982) 再び »

2022年11月13日 (日曜日)

『Night Passage』を聴き直す

今の耳で聴き直していて、ウェザー・リポート(Weather Report)というバンドの「根っこの音志向」って何だったんだろう、と思うことがある。アルバムによって、売上を度外視したアーティステックなジャズを追求する場合と、売上を目指して大衆的なジャズを追求する場合と両極端に「バンドの音の志向」が振れている様に感じるのだ。

Weather Report『Night Passage』(写真左)。1980年のリリース。ちなみにパーソネルは、パーソネルは、Josef Zawinul (Key), Wayne Shorter (ts,ss), Jaco Pastorius (b), Peter Erskine (ds), Robert Thomas Jr. (hand ds)。WRのバンドの歴史史上、最強のラインアップでの録音になる。

音を聴くと判るのだが、ライヴ録音っぽい音をしている。実は『Madagascar』以外の収録曲は、1980年7月にロサンゼルスのコンプレックス・スタジオに観客を動員した上で、2日間にわたってライヴ形式で録音。残る『Madagascar』は、同年6月に大阪フェスティバル・ホールで開催されたライヴ演奏の音源が収録されている。オーヴァーダヴなどはしていないぞ、というWRの宣言なのだろうか。この録音形式をとった動機が未だに良く判らない。

とにかく、最強のラインアップでライヴ録音した『8:30』は、基本的にポップでフュージョンな『Heavy Weather』のライヴ盤的な内容だったが故、売れに売れた。前作『Mr.Gone』 での売れ行き低下に歯止めをかけ、再び、人気ジャズバンドとしての地位に返り咲いた訳である。で、この『Night Passage』であるが、収録曲の曲想から、どうも『Heavy Weather』の二番煎じを狙った節がある。

収録曲の作曲担当の配分を見ても、ザヴィヌルが5曲、ショーターが1曲、ジャコが1曲、そして、エリントンの曲が1曲。ほとんどをザヴィヌルが担当。ポップでフュージョンなエレ・ジャズを目指したザヴィヌル。しかし、曲の出来としては、ショーターの「Port of Entry」と、ジャコの名バラード「Three Views of a Secret」が突出している。
 

Weather-reportnight-passage

 
ザヴィヌル作のポップでフュージョンなエレ・ジャズでも、ジャコのアースキンのリズム隊は強烈。ジャコはモーダルな高速ベース・ラインを弾きまくり、アースキンは高速ポリリズムを叩きまくる。ザヴィヌルの用意したポップでキャッチャーなフレーズを、この強烈なリズム隊が、ストイックでアーティスティックなフレーズに変化させている。

デューク・エリントンの『Rockin in Rhythm』のカヴァーや表題曲における4ビートの導入だって、売らんが為のキャッチャーな話題作りの匂いがプンプンするが、このカヴァーは、キーボードを重ねてのビッグバンドの音の再現は平凡だと感じるが、ジャコとアースキンの強烈リズム隊の、モダンでストイックで「疾走する4ビートなスイング感」で、名カヴァーの1曲として、高く評価されている。

ショーターのサックスだって、もう二度と「A Remark You Made」の様な、甘々でポップでフュージョン・チックなフレーズは吹かないぞ、とばかりに、ジャコとアースキンの強烈リズム隊に引っ張られるように、限りなく自由度の高い、ストイックでアーティスティックなフレーズを吹きまくっている。この盤では、ショーターは完全にジャコとアースキンの強烈リズム隊に「乗って」いる。

僕はアルバム全体を覆う「バンド演奏としての一体感と熱量の不足」が以前から気になっていたのだが、そんな複雑なバンド環境の中で、この『Night Passage』は成立しているからだと推察している。バンド・リーダーの音志向がバンド全体に行き渡り、バンド一体となって、その音志向に向かって邁進する、そんな「一体感と熱量」がこの盤には、どこか不足している。

それでも、この『Night Passage』は、ポップでキャッチャーでフュージョン・チックなフレーズを散りばめながら、当時のエレ・ジャズとして、そのアーティステックな内容が高く評価されて、WR史上の最高傑作として評価されている。

僕もこの『Night Passage』は、WRのデビュー盤『Weather Report』、ジャコWRの『Mr.Gone』に匹敵する傑作だと評価している。いずれの盤も「リズム&ビート」が要。エレ・ジャズには、そのバンドの音志向を反映する「リズム&ビート」が必須。

そういう面で、この『Night Passage』はちょっと異質で、リーダー以外の音志向を反映した「リズム&ビート」が要になっている。それでも傑作なのだ。ジャズは面白い。
 
 

《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!

 ★ AORの風に吹かれて        【New】 2022.03.13 更新。

  ・『AirPlay』(ロマンチック) 1980

 ★ まだまだロックキッズ     【New】 2022.03.13 更新。

   ・遠い昔、懐かしの『地底探検』

 ★ 松和の「青春のかけら達」 【New】 2022.03.13 更新。

   ・四人囃子の『Golden Picnics』
 
 
Matsuwa_billboard

★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。

★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。

東日本大震災から11年8ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。

Never_giveup_4 
 

« ブルー・トレイン 65周年記念盤 | トップページ | Weather Report (1982) 再び »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ブルー・トレイン 65周年記念盤 | トップページ | Weather Report (1982) 再び »

リンク

  • まだまだロックキッズ(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のロック」盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代ロックの記事を修正加筆して集約していきます。
  • 松和の「青春のかけら達」(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    この「松和・別館」では、懐かしの「1970年代のJポップ」、いわゆるニューミュージック・フォーク盤の感想や思い出を率直に語ります。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、70年代Jポップの記事を修正加筆して集約していきます。           
  • AORの風に吹かれて(バーチャル音楽喫茶『松和』別館)
    AORとは、Adult-Oriented Rockの略語。一言でいうと「大人向けのロック」。ロックがポップスやジャズ、ファンクなどさまざまな音楽と融合し、大人の鑑賞にも堪えうるクオリティの高いロックがAOR。これまでの、ジャズ喫茶『松和』マスターのひとりごと・ブログの中で不定期に掲載した、AORの記事を修正加筆して集約していきます。  

カテゴリー