『Night Passage』を聴き直す
今の耳で聴き直していて、ウェザー・リポート(Weather Report)というバンドの「根っこの音志向」って何だったんだろう、と思うことがある。アルバムによって、売上を度外視したアーティステックなジャズを追求する場合と、売上を目指して大衆的なジャズを追求する場合と両極端に「バンドの音の志向」が振れている様に感じるのだ。
Weather Report『Night Passage』(写真左)。1980年のリリース。ちなみにパーソネルは、パーソネルは、Josef Zawinul (Key), Wayne Shorter (ts,ss), Jaco Pastorius (b), Peter Erskine (ds), Robert Thomas Jr. (hand ds)。WRのバンドの歴史史上、最強のラインアップでの録音になる。
音を聴くと判るのだが、ライヴ録音っぽい音をしている。実は『Madagascar』以外の収録曲は、1980年7月にロサンゼルスのコンプレックス・スタジオに観客を動員した上で、2日間にわたってライヴ形式で録音。残る『Madagascar』は、同年6月に大阪フェスティバル・ホールで開催されたライヴ演奏の音源が収録されている。オーヴァーダヴなどはしていないぞ、というWRの宣言なのだろうか。この録音形式をとった動機が未だに良く判らない。
とにかく、最強のラインアップでライヴ録音した『8:30』は、基本的にポップでフュージョンな『Heavy Weather』のライヴ盤的な内容だったが故、売れに売れた。前作『Mr.Gone』 での売れ行き低下に歯止めをかけ、再び、人気ジャズバンドとしての地位に返り咲いた訳である。で、この『Night Passage』であるが、収録曲の曲想から、どうも『Heavy Weather』の二番煎じを狙った節がある。
収録曲の作曲担当の配分を見ても、ザヴィヌルが5曲、ショーターが1曲、ジャコが1曲、そして、エリントンの曲が1曲。ほとんどをザヴィヌルが担当。ポップでフュージョンなエレ・ジャズを目指したザヴィヌル。しかし、曲の出来としては、ショーターの「Port of Entry」と、ジャコの名バラード「Three Views of a Secret」が突出している。
ザヴィヌル作のポップでフュージョンなエレ・ジャズでも、ジャコのアースキンのリズム隊は強烈。ジャコはモーダルな高速ベース・ラインを弾きまくり、アースキンは高速ポリリズムを叩きまくる。ザヴィヌルの用意したポップでキャッチャーなフレーズを、この強烈なリズム隊が、ストイックでアーティスティックなフレーズに変化させている。
デューク・エリントンの『Rockin in Rhythm』のカヴァーや表題曲における4ビートの導入だって、売らんが為のキャッチャーな話題作りの匂いがプンプンするが、このカヴァーは、キーボードを重ねてのビッグバンドの音の再現は平凡だと感じるが、ジャコとアースキンの強烈リズム隊の、モダンでストイックで「疾走する4ビートなスイング感」で、名カヴァーの1曲として、高く評価されている。
ショーターのサックスだって、もう二度と「A Remark You Made」の様な、甘々でポップでフュージョン・チックなフレーズは吹かないぞ、とばかりに、ジャコとアースキンの強烈リズム隊に引っ張られるように、限りなく自由度の高い、ストイックでアーティスティックなフレーズを吹きまくっている。この盤では、ショーターは完全にジャコとアースキンの強烈リズム隊に「乗って」いる。
僕はアルバム全体を覆う「バンド演奏としての一体感と熱量の不足」が以前から気になっていたのだが、そんな複雑なバンド環境の中で、この『Night Passage』は成立しているからだと推察している。バンド・リーダーの音志向がバンド全体に行き渡り、バンド一体となって、その音志向に向かって邁進する、そんな「一体感と熱量」がこの盤には、どこか不足している。
それでも、この『Night Passage』は、ポップでキャッチャーでフュージョン・チックなフレーズを散りばめながら、当時のエレ・ジャズとして、そのアーティステックな内容が高く評価されて、WR史上の最高傑作として評価されている。
僕もこの『Night Passage』は、WRのデビュー盤『Weather Report』、ジャコWRの『Mr.Gone』に匹敵する傑作だと評価している。いずれの盤も「リズム&ビート」が要。エレ・ジャズには、そのバンドの音志向を反映する「リズム&ビート」が必須。
そういう面で、この『Night Passage』はちょっと異質で、リーダー以外の音志向を反映した「リズム&ビート」が要になっている。それでも傑作なのだ。ジャズは面白い。
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