Weather Report (1982) 再び
「コズミック&モーダル」と「アーシー、エスニック&ユートピア」を志向としたエレ・ジャズというのが、ウェザー・リポートの音世界だったと思う。
ショーターは「コズミック、モーダル」を担当したが、バンド内での活動の縮小によって、「コズミック、モーダル」な音志向は後退、「アーシー、エスニック&ユートピア」の音志向はザヴィヌルが担当、ユートピア志向は「Birdland」を頂点に、急速に後退していった。
『Weather Report(1982)』(写真左)。1982年の作品。ちなみにパーソネルは、パーソネルは、Josef Zawinul (Key), Wayne Shorter (ts,ss), Jaco Pastorius (b), Peter Erskine (ds), Robert Thomas Jr. (hand ds)。前作の傑作『Night Passage』と同一メンバーによる作品。1980年代録音の最初のリリースということで、その意味も込めて、アルバム・タイトルは、デビュー盤と同様、グループ名だけを冠した『Weather Report』としている。
音的には前作の音志向を踏襲している。ポップでキャッチャーでフュージョン・チックなフレーズは、冒頭の「Volcano for Hire」のみ。2曲目以降は、コンテンポラリーな純ジャズな演奏として、インプロビゼーションに重点を置いた、意外に「硬派」な内容になっている。この盤でもジャコのアースキンのリズム隊は強烈。2曲目以降が、コンテンポラリーな純ジャズな演奏になっているのは、この強烈なリズム隊のお陰でだろう。
しかし、どの演奏も、前作にも増して「バンド演奏としての一体感と熱量の不足」に拍車がかかっている。ジャコのモーダルで自由度の高いベース・ラインと、アースキンの高速ポリリズミックなドラミングが強烈にも関わらず、何だか演奏の盛り上がりに欠け、ジャズ演奏の熱量に欠け、即興演奏の熱気に欠けた、静的でどこか覇気の無い、ちょっと陰鬱なエレ・ジャズが展開される。
この頃のザヴィヌルは、録音に関して「完全主義者」と化していて、ジャコのベース、アースキンのドラムに対して、ザヴィヌル自身が気に入る音になるまで、何度もやり直しをさせていた、とのこと。この盤に録音されたジャコのベースとアースキンのドラムは、本人達が満足するパフォーマンスでは無く、ザヴィヌルがやり直しを命じ、ザヴィヌルが気に入ったものを採用して、リズム&ビートのベースにしている。
この「演奏の盛り上がりに欠け、ジャズ演奏の熱量に欠け、即興演奏の熱気に欠けた、静的でどこか陰鬱なリズム&ビート」がザヴィヌルのお気に入りだったのだから堪らない。確かに、リズム&ビートの躍動感と自由度が後退し目立たなくなった分、ザヴィヌルのキーボードは目立ってはいるが、この盤でのコンテンポラリーな純ジャズな音志向からすると、ザヴィヌルのキーボードは必然性に欠ける。
前作『Night Passage』と同一メンバーでの演奏なのに、この『Weather Report(1982)』の演奏内容の落差には驚くばかり。ザヴィヌルのワンマン化が進み、バンドとしての一体感は無くなり、同一の音志向を追求することも無かったのだろう。当時、ザヴィヌルは何を考えていたんだろう。音を創作するクリエイターの立場にいたザヴィヌル。この盤におけるプロデュースは感心できない。
振り返れば、リーダー以外の音志向を反映した「リズム&ビート」が要となった、ストイックでアーティスティックなコンテンポラリーなエレ・ジャズを志向した「ジャコ&ショーターのウェザー」は、『Mr.Gone』『8:30』『Night Passage』の3枚の傑作を残して終わった。今でも、WRのアルバムの中でも、この3枚は傑作として評価が高い。
しかし、同一メンバーで臨んだ『Weather Report(1982)』は、そんなジャコ&ショーターのWRの抜け殻でしかなかった。平凡なデザインのジャケットと共に、この盤はWRの問題作の1枚だろう。決して凡作では無い。しかし、傑作でも無い。様々な問題を内包した「問題作」だろう。
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