見事なショパンの「ジャズ化」
ジャズは以前から、クラシックのジャズ化が意外と多い。1940〜50年代、例えば、ピアノの神様、アート・テイタムは「ユーモレスク」を独奏することが多かったし、モダン・ジャズ・カルテットは、クラシックの演奏手法をジャズに取り入れた。バッハは結構、ピアニストを中心にジャズ・アレンジされている。確か、バド・パウエルもバッハの名曲を好んでカヴァーしていた筈だ。
仏出身のピアニスト、ジャック・ルーシェが、J.S.バッハの作品をジャズ・トリオで演奏、その後多くのジャズ・ピアニストがクラシック音楽をジャズの題材にする切っ掛けを作っている。ルーマニア出身のピアニスト、オイゲン・キケロは、1965年のデビュー作『Rokoko Jazz』で、ロココ時代の古典音楽をスウィング・ジャズにアレンジした作品で、世界的に注目を浴びた。
僕がジャズを聴き始めた1970年代以降では、ヨーロピアン・ジャズ・トリオが、クラシックの名曲を洗練されたアレンジでカヴァーし、人気を博した。また、我が国では、最近になるが、ピアニストの山中千尋が『Utopia』で、サン=サーンスやスクリャービン、ブラームス、ドヴォルザーク、武満徹などの名曲を取り上げている。伊出身のマッシモ・ファラオもクラシック名曲をジャズにアレンジしている。
Kurt Rosenwinkel & Jean-Paul Brodbeck『The Chopin Project』(写真左)。2021年8月、スイスのチューリッヒでの録音。ちなみにパーソネルは、Kurt Rosenwinkel (g), Jean-Paul Brodbeck (p), Lukas Traxel (b), Jorge Rossy (ds)。現代ジャズの正統派ギタリストの中堅、カート・ローゼンウィンケルの新作である。これが、タイトルを見れば「只者では無い」。
スイス人ピアニスト、ジャン・ポール・ブロードベックがアレンジとプロデュースを手掛けたカルテット編成のフレデリック・ショパン曲集である。人気の高い「24の前奏曲」を中心に「練習曲作品10第6番」や「夜想曲7番27-1」などの有名曲を素晴らしいアレンジでカヴァーしている。
何が素晴らしいか、というと、原曲のメロディーはしっかりと残しつつ、リズム&ビートはしっかりジャズしていて、アドリブ部に入ると、原曲の持つキーの流れを着実に押さえて、コードで展開し、モードで展開する。このアドリブ部を聴いていると、流麗なフレーズが印象的な純ジャズのアドリブ・パフォーマンスとしか思えない。ジャズとして聴いて爽快感を感じるくらい、ショパンの名曲を完璧に「ジャズ化」しているのだ。
リーダーのローゼンウィンケルのギターも超絶技巧で歌心抜群。ショパンのピアノ曲って、フレーズの速さ、流れ、展開、どれもがダイナミックで高速で流麗。ピアノでも弾きこなすのに難度が高い曲を、ローゼンウィンケルはギターで弾き込んでいる。ショパンの流麗なフレーズを、自らの個性で、唯一無二な響きで弾き上げるローゼンウィンケルのフレーズは新鮮さに満ちている。
クラシックの、ショパンのジャズ化に留まらない、ショパンの楽曲を題材にした、カートウィンケルならではの「純ジャズ」なパフォーマンスに昇華された演奏の数々。聴き応え満点。ショパン曲の持つ流麗なメロディーをベースとしているが故、聴き味良く、既に、我がバーシャル音楽喫茶『松和』では、ヘビロテ盤になってます。
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