『幻祭夜話』を今一度、聴き直す
Weather Report(以降WRと略)のアルバムの聴き直しを進めている。暫く期間が空いたが、いよいよ「第2期黄金時代」の幕開けの時代に入る。
前作『Mysterious Traveller』で、ザヴィヌルは、WRの音楽的志向を「エスニック&ユートピア」に舵を切る。リズム&ビートは「ファンク」なんだが、メロディーにはエスニックの味付け。エスニック志向のエレ・ファンクと形容しても良いかもしれない。
しかし、デビュー時代から、相応しいドラマーが見つからない。ベースについても、ビトウスの抜けた穴は大きい。リズム隊に傷を残し、ザヴィヌル自身もシンセの扱いに苦労し、ショーターは徐々にWRの活動に興味を失いつつあった。しかし、そんな時でも『Mysterious Traveller』という売れ線のアルバムを残したのだから、WRのバンドとしてのポテンシャルはまだまだ高いものがあった。
Weather Report『Tale Spinnin'』(写真左)。1975年の作品。邦題は『幻祭夜話』。ちなみにパーソネルは、Joe Zawinul (key), Wayne Shorter (sax), Alphonso Johnson (el-b), Leon "Ndugu" Chancler (ds), Alyrio Lima (perc)。ベースはアルフォンス・ジョンソン、ドラムはレオン・チャンクラー、ドラムを補佐するパーカッションはアリリオ・リマで、リズム隊は落ち着いた。
ザヴィヌル自身、シンセの扱いに苦労し、フロント楽器としての振る舞いが上手く出来ないということを前作で理解したのか、ショーターのバンドへの興味を元に戻すべく、ザヴィヌル好みの「エスニック&ユートピア」な音世界に、ショーター好みの「黒魔術」的な音世界を加味することを決断。楽曲もショーターが2曲、ザヴィヌルが4曲。ザヴィヌルの4曲もショーター好みのフレーズを散りばめている。
前作『Mysterious Traveller』に比べて、それぞれの曲の内容が桁外れに良い。冒頭の「 Man in the Green Shirt」や、4曲目の「Badia」そして、続く「Freezing Fire」など、「エスニック&ユートピア」+「黒魔術」の名曲である。中には「およよ」的な曲もあるが、前作に比べて、総じて楽曲の内容と質は飛躍的に向上している。
その結果、この『Tale Spinnin'』では、ショーターが活き活きとサックスを吹いているのが印象的。やはり、ショーターが腰を据えて吹く、モーダルなサックスは魅力抜群。ザヴィヌル好みの「エスニック&ユートピア」な音作りに、「黒魔術」的な音を積極的に取り込むことにより、この盤での音は、より「黒く」、より「ジャジー」になった。この盤で、WRの第2期黄金時代の音の志向は固まったのでは無いか。
リズム隊も地味ではあるが、落ち着いたリズム&ビートを供給していて及第点。フロントのザヴィヌルのキーボードとショーターのサックスと対等の立場に立ったインタープレイを展開するほどでは無いが、WR独特のグルーヴ感を醸し出すのには成功している。特に、アルフォンソのエレベの音、そして、リマのパーカッションが効いている。
ザヴィヌルの試行錯誤と深慮遠謀が良く判る、そして、なんだかんだと言いながら、ショーターの存在意義を再認識した『Tale Spinnin'』。「俺一人でもいける」〜「俺一人では駄目だ」〜「でも売れなきゃ駄目だ」という志向の揺らぎが、結局、WRの第2期黄金時代の音の志向固めにダイレクトに繋がったのだから、WRというバンドは強運のバンドだった。
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