キューンの「ポップ」な側面
このジャズ・ピアノのレジェンドは、僕の最初の印象は「強面」のピアニスト。前衛的なモーダルな弾き回しで、時にフリー、時にアブストラクトに、時にスピリチュアルに展開する、硬派で尖った、ニュー・ジャズ系のジャズ・ピアニストという印象が強かった。
が、1995年のECMカムバック盤『 Remembering Tomorrow』辺りから、リリカルで耽美的で欧州ジャズ風な、正統派でモーダルなピアニストという印象に変わってきた。今では、ストイックで硬質なタッチ、流麗でありながら、フリーにもスピリチュアルにも展開する柔軟さを兼ね備えた、ニュー・ジャズ系のピアニストというイメージが定着している。
Steve Kuhn Trio『Quiereme Mucho』(写真)。2000年2月20日、NYでの録音。ヴィーナス・レコードからのリリース。ちなみにパーソネルは、Steve Kuhn (p), David Finck (b), Al Foster (ds)。ニュー・ジャズ系ジャズ・ピアノのレジェンド、スティーヴ・キューン、録音当時61歳のトリオ盤になる。
最初、収録された曲名を見て、ヴィーナス・レコードは、よくまあ、キューンに「アフロ・キューバン」を弾かせたもんだ、と思った。逆に、キューンもよく「アフロ・キューバン」を弾く気になったなあ、とも思った。別に、当時、キューンは仕事に困っていた訳でも無い。不思議な気分でCDのスタートボタンを押す。
あれれ、出てくる音は、硬派でストイック、リリカルで耽美的な「アフロ・キューバン」が出てくるでは無いか。出てくるピアノの音をずっと聴いていると、これはもしかしたらキューンなのか、と判る位、キューンのピアノの個性が際立っている。しかも、「アフロ・キューバン」系の曲を弾いても違和感が無い。思わず、これは凄いぞ、と身を乗り出す。
キューンの凄いところは、自らの個性を客観的に十分理解していて、素材である楽曲に対して、その自らの個性を最大限引き出せる、最大限活かせるポイントを見抜いて、そのポイントに対して、自らの個性を濃厚に反映させる点。
そんな個性を反映するアレンジと弾き方をするのだから、キューンのピアニストとしての卓越したテクニックと表現方法の引き出しの多さについて、改めて再認識し、最敬礼するのだ。
『Andalucia (The Breeze And I):そよ風と私』、『Besame Mucho (Kiss Me Mucho)』、『Quiereme Mucho (Yours)』など、とてもポピュラーで、ジャズ演奏としても「手垢の付いた様な」有名なアフロ・キューバンの名曲を、原曲のイメージを残しつつ、キューンの個性でアレンジし、キューンのピアノならではの表現に変えている。
キューンの耽美的でリリカルなピアノのタッチと響きは、ヴィーナス・レコードの「レーベルの音」にしっかりと合わせてきている。が、キューンのピアノの個性の方が「立って」いるのは見事という他ない。キューンは、アフロ・キューバンとヴィーナス・レコードを素材にして、キューンならではの個性を再提示している。
キューンのピアノの「ポップ」な側面を、ヴィーナス・レコードというレーベルを通じて、初めて前面に押し出している。キューンに、こんなポップな面があったとは、新しい発見であった。ヴィーナス・レコードはキューンを上手く利用しようとしたら、逆に、キューンに上手く利用された、そんな感じのするキューンの好盤である。
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