ベニー・グリーンの初トリオ盤
1988年の2月にクインテット編成で、初リーダー作を録音した、ピアニストのベニー・グリーン(Benny Green)。ピアニストにとって、個性が露わになる「ピアノ・トリオ」の演奏は次のリーダー作に申し送られた訳だが、その次のリーダー作は、初リーダー作の10ヶ月後、早々に録音されている。
Benny Green Trio『In This Direction』(写真左)。1988年12月29日、1989年1月2日の録音。ちなみにパーソネルは、Benny Green (p), Buster Williams (b), Lewis Nash (ds)。初リーダー作のクインテットでは、リズム・セクションのパートナーとして、Peter Washington (b), Tony Reedus (ds) を選んでいたが、今回のトリオ盤については、ベース、ドラムをガラッと入れ替えている。
冒頭の「In This Direction」を聴けば、ベニー・グリーンのピアノの個性が良く判る。ビ・バップ・ピアノ、モダン・ジャズ・ピアノの祖であるバド・パウエル作の曲を、グリーンの個性でモーダルに解釈している。これがとても面白い。
セロニアス・モンク作のバップ曲「Trinkle Tinkle」を自分なりのハイテクニックな弾き方で、モンクの弾きかたの「癖」をモーダルに料理していくところなど「豪気」ですらある。
純ジャズ復古の後、1988年、新伝承派が1960年代のモード・ジャズを下敷きにした、モード・ジャズの深化形を世に問うていた訳だが、ベニー・グリーンのアプローチは、新伝承派のアプローチとは全く異なる。
バド・パウエル作の「In This Direction」、いわゆる、バップ・ピアノな曲にモーダルな解釈を施して、新しい響きのハードバップ・ピアノを表現している。モンク作の「Trinkle Tinkle」についても同様なことが言える。これが実にユニークなのだ。
ベニー・グリーンのモーダルな展開は、明るく判り易く、どこかポップで判り易い。新伝承派のモーダルな展開は難解さが伴う。この違いはなんだろう。思うに、新伝承派は1960年代のモード・ジャズをベースに深化させている。グリーンは、ベースは何であれ、グリーンのモーダルな解釈をベースに新しいモード・ジャズを志向している。
つまり、新伝承派のモード・ジャズは、国語の世界で言うと「旧仮名遣い」が混じっている感じで、グリーンのモードジャズは「新仮名遣い」な感じがする。1960年代のモード・ジャズは、1960年代として最新の音だったが、1988年のモード・ジャズは、クロスオーバー&フュージョン・ジャズの大流行を経験して、その遺伝子がしっかりと残っている。
1960年代のモード・ジャズは、シビアで硬派でストイックな、ちょっと難解なジャズだったと感じているが、これをベースにモード・ジャズを深化させたら、その「難解さ」はしっかり残る。グリーンのアプローチは、1960年代のモード・ジャズをあまり意識していない様なので、新伝承派が持つ「難解さ」は無い。
超絶技巧に近いテクニックでモーダルなフレーズを弾き回すので、難解なモーダルなフレーズが「流麗」かつ「端正」に聴こえるところも、グリーンのピアノならではの個性だろう。
加えて、トリオのパートナー、ベースのバスター・ウィリアムスとドラムのルイス・ナッシュのサポートが絶妙。このリズム隊に恵まれて、グリーンは心おきなく、自分なりのモーダルなフレーズを自由奔放に弾き回している。
覇気溢れる、ファンキーでモーダルな、高テクニックなピアノ。これだけ聴けば「さぞ五月蠅い、粘っこい」ピアノかな、と思うのだが、グリーンのピアノは、爽快感溢れ、どこかポップな感覚が漂う「聴き易い」ピアノ。この盤は、録音年から10年ほど経った頃、初めて聴いたのだが、「面白いモード・ピアニストがいたもんだ」と嬉しくなったのを覚えている。
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