『Time Out』のアウトテイク集
僕がジャズを聴き始めた頃、今から50年以上になるが、デイブ・ブルーベックというジャズ・ピアニストは、米国本国では人気のピアニストなんだが、我が国では人気がイマイチだった。
当時のジャズ評論家の方々がこぞって「スイングしないピアニスト」だの「ファンクネスが無い」だの「白人だからジャズじゃない」だのケチョンケチョンに書くものだから、本当に我が国では人気がイマイチだった。気の毒なことであった。
不思議なのは、デイブ・ブルーベック・カルテットの『Time Out』というアルバムだけが、一般のジャズ者の方々から人気があって、それは、このアルバムに収録されている「Take Five」という「4分の5拍子」という珍しい変則拍子で構成された曲の人気が抜群だからだろう。この『Time Out』というアルバムは、変則拍子を採用した楽曲中心に構成された名盤なのだ。
Dave Brubeck Quartet『Time Outtakes』(写真左)。2021年12月のリリース。ちなみにパーソネルは、Dave Brubeck (p), Paul Desmond (as), Eugene Wright (b), Joe Morello (ds)。変則拍子の名盤『Time Out』と同一メンバー。
昨年、デイヴ・ブルーベックの生誕100年を記念して、この『Time Out』のアウトテイク集がリリースされた。非常に唐突なリリースなのだが、その触れ込みが、名曲「Take Five」の初期テイクを収録、とある。僕にとっては、デイブ・ブルーベックがお気に入りピアニストの1人なので、これはゲットしなければ、である。
1曲目の「Blue Rondo à la Turk」から、「Strange Meadow Lark」「Take Five」「Three to Get Ready」「Kathy's Waltz」の5曲が、正式盤『Time Out』の同一曲のテイク違い。これが実に興味深い。特に、有名な変則拍子の楽曲の別テイクは聴いていて面白いことこの上無い。
触れ込みどおり、有名曲「Take Five」の初期テイクが一番、興味深い。この変則拍子の名曲のリズムの鍵を握っているのが、ジョー・モレロのドラミングなんだが、この初期テイクでのモレロのドラミングが凄い。出だしは「手探り」状態で、恐る恐るビートを刻むが、ブルーベックのピアノが入って来る頃には、キッチリと「4分の5拍子」を叩き出している。
そして、途中出てくるモレロのソロが絶品。「Take Five」のマスター・テイクとは全く違うが、マスター・テイクのソロの上を行く内容には驚いた。この初期テイクのモレロのドラミングがあまりに鋭いので、マスター・テイクでは「デグレード」した様だ。
それもそのはず、初期テイクでは、この「4分の5拍子」に、デスモンドのアルトはかなり苦戦している。逆に、ユージン・ライトのベースは、変則拍子に十分適用している。変則拍子のベースラインを弾くのに、あまり苦にはならないようだ。
リーダーのブルーベックのピアノはさすがで、苦も無く「4分の5拍子」を叩き出している。アドリブも「4分の5拍子」にしっかりと乗っていて、ブルーベックのテクニックの確かさと柔軟さがここに現れている。そして、彼の名誉の為に、改めて言いたいが、ブルーベックのピアノは「4分の5拍子」に乗って、魅力的にスイングしている。
他のアウトテイクについても、モレロの変則拍子ドラミングの鋭さが突出している。次いで、ブルーベックの変則拍子に乗った、スインギーなピアノ。そして、変則拍子に揺るがず、堅実なベースラインを刻むライト。逆にデスモンドのアルトは変則拍子に大苦戦。変則拍子のアドリブはかなり勝手が違うようだ。
そんな『Time Out』の収録曲の初期テイクを聴くと、あの変則拍子の名盤『Time Out』が一朝一夕に出来たものでは無い、ということが良く判る。ブルーベックのフォロワーであれば、絶対に聴くべきアウトテイク集である。また、名盤『Time Out』を知らなくても、単体でも十分に楽しめる、内容充実のアウトテイク集である。
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