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2022年8月 6日 (土曜日)

ボーダーレスなジャズの一端

今年で設立53年を迎えた、ドイツの老舗ジャズ・レーベルECMからリリースされた、21世紀の注目アーティストをラインナップした「21世紀のECM」キャンペーンが展開されている。対象アルバムは全20タイトルなんだが、1990年以降に活動をスタートさせた注目アーティストをボーダーレスに選定している。これが意外に、21世紀の「今」のジャズのトレンドの大きな幾つかの切り口を示唆していて、実に興味深い。

その注目のアーティストの中に、ヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)がいる。アイヤーは、1971年10月米国生まれ。今年で51歳の中堅ピアニスト。リーダー作は、1995年の初リーダー作以来、20枚以上を数える。2014年からはECMレーベルからのリリースに絞っている。もともと、アイヤーのピアノは、耽美的でリリカルなピアノが個性なので、ECMレーベルの「音のカラー」にはピッタリのピアニストではある。

Vijay Iyer『Break Stuff』(写真左)。2014年6月、NYでの録音。ちなみにパーソネルは、Vijay Iyer (p), Stephan Crump (b), Marcus Gilmore (ds)。スティーヴ・キューン、キース・ジャレットなどの「耽美的でリリカルで現代音楽風なジャズ・ピアノ」の系譜をしっかりと受け継いだヴィジェイ・アイヤーのトリオ盤。メンバー全員が米国出身のジャズマンで固められている。

最初、耽美的でリリカル、オリエンタルな雰囲気が仄かに漂う個性的なピアノ・トリオのパフォーマンスが印象的だった。てっきり、アイヤーはイスラエル〜東欧辺りの出身かな、と思ったんだが、米国出身だった。
 

Vijay-iyerbreak-stuff

 
ベースもドラムも米国出身。オール・アメリカンなピアノ・トリオなんだが、出てくる音は、米国ジャズから一番遠かった、ECMレーベルの代表的な音そのものの限りなく欧州的な耽美的でリリカルな音。

ファンクネスは皆無、スインギーな4ビートとは無縁。それでいて、ジャジーなリズム&ビートの下、目眩く即興演奏の数々。ほの暗く重厚なユッタリとした「Starlings」から始まり、ダイナミックな展開の「Chorale」など、アイヤーの自作曲はどれもが白眉の出来。

しかし、アイヤーのピアノの個性は、ミュージシャンズ・チューンなスタンダード曲で顕著になる。セロニアス・モンク作の「Work」は、幾何学模様的にフレーズがリリカルに展開し、コルトレーン作の「Countdown」は、耽美的でリリカルなフレーズでモーダルな展開を表現する。そして、アイヤーのピアノ・ソロで静謐に奏でるストレイホーン作の「Blood Count」は、アイヤーのピアノの個性の象徴的なソロ・パフォーマンスだ。

しかし、この耽美的でリリカルで現代音楽風のピアノ・トリオが、オール・アメリカンなピアノ・トリオで演奏されているのを知った時には、かなりビックリした。21世紀のジャズは「ボーダレスな時代になる」と思った。

そのボーダーレスなジャズが、ECMレーベルの下に集結しつつある。北欧、東欧、イスラエル、米国、日本などの「多国籍」なジャズが、ECMレーベルの音世界の下に集結している。そんなボーダーレスなジャズの一端が、このアイヤーのピアノ・トリオ盤で実感出来るのだ。
 
 

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