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2022年8月26日 (金曜日)

Benny Greenというピアニスト

1990年代半ば辺りから、ベニー・グリーン(Benny Green)というピアニストをずっと追いかけている。いわゆる「お気に入りのピアニスト」の1人である。1963年4月生まれ。今年で59歳のベテランの域に達したピアニストである。

1963年生まれで、初リーダー作が1988年、25歳の頃なので、ウィントン率いる「新伝承派」か、それに相対する「M-BESE派」のピアニストか、と思うのだが、彼のピアノを聴いてみると判るのだが、新伝承派でも無ければ、M-BASE派でも無い。どちらかと言えば、21世紀に入ってからの「ネオ・ハードバップ」なピアノの個性が独特である。

Benny Green『Prelude』(写真左)。1988年2月22日の録音。ちなみにパーソネルは、Benny Green (p), Terence Blanchard (tp), Javon Jackson (ts), Peter Washington (b), Tony Reedus (ds)。ブランチャードのトランペットとジャクソンのテナーがフロント2管のクインテット編成。メンバー全員、アート・ブレイキーとの共演の経歴を持つ。

メンバー皆、同じ世代なので、新伝承派の音になりそうなんだが、これがならない。新伝承派は、1960年代のマイルス・クインテットのモーダルな演奏を下敷きに、テクニックを向上させ、展開の難度を高めた、1960年代のモード・ジャズの改良イメージなんだが、ベニー・グリーンの初リーダー作の音は「それ」では無い。

モード・ジャズはモード・ジャズなんだが、過去のモード・ジャズな演奏を下敷きにしていない。響きがまるで違うのだ。グリーンのモーダルな展開は、明るく判り易く、どこかポップ。
 

Benny-green-prelude

 
テクニックは優秀、バリバリ高速な弾き回しもOKなんだが、とても流麗で堅実で、難解には聴こえない。ピアノの弾き回しの印象は、マッコイ・タイナー風、セロニアス・モンク風、オスカー・ピーターソン風な雰囲気が見え隠れするが、基本的には、ベニー・グリーン流のバップ・ピアノ。

モードなピアノではあるが、弾き回しの雰囲気が、モード以前のタイナー風であったり、モードとは無縁のモンク風であったり、ピーターソン風であったりするので、1960年代の優れたモード・ジャズの演奏を想起する「切っ掛け」が皆無。

モーダルな弾き回しは弾き回しなんだが、ファンクネスは薄め、1970年代のECMを中心とする「ニュー・ジャズ」の中のモード・ジャズな響きもあり、21世紀の「ネオ・ハードバップ」なモード・ジャズに近しい雰囲気である。その辺が「新伝承派」と大きく異なる部分。世代が世代なので、新伝承派の影響をモロに受けても不思議は無いのだが、ベニー・グリーンは独自の響きを持ったモード・ジャズを展開しているところがユニーク。

初リーダー作をリリースした1988年は、新伝承派の活動が活発だった頃。グリーンは、アレンジャー&コンポーザーの力量とフロント楽器をサポートし鼓舞する「伴奏上手」なピアノを世に問うべく、管楽器がフロントのカルテット、クインテット編成が米国ではウケが良いことも考慮に入れて、まずはクインテット編成で、初リーダー作を打って出ている。意外と「グリーン」は戦略家。

グリーンのピアノの個性が露わになる「ピアノ・トリオ」の演奏は、この初リーダー作のすぐ後、セカンド盤『In This Direction』でお披露目される。ネオ・ハードバップのバップ・ピアノを先取りしたグリーンのピアノは、このセカンド盤で楽しむ事が出来る。
 
 

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