『Cumbia & Jazz Fusion』再び
久々に「チャールズ・ミンガス(Charles Mingus)」のリーダー作を一気に聴き直したくなった。ミンガスのキャリア初期の名盤『Pithecanthropus Erectus(直立猿人)』 を聴いて、雄大なオーケストラルな音世界、正統なモダン・ジャズのアレンジを踏襲した重厚な音作り、しっかりと統率されたグループ・サウンド、に感じ入って以来、節目節目でミンガス・ジャズを聴いてきた。
僕はミンガス・ジャズには、モダン・ジャズの「基本中の基本」の音作りが宿っていると感じている。エリントン・ジャズを踏襲し、当時のジャズの最新の演奏トレンドを積極的に取り込み、何時の時点でも、その時点での「先端を行くジャズ」を表現している。つまり、モダン・ジャズを常に進化させている訳で、これは音楽を創造していく上での「基本中の基本」で、ミンガス・ジャズはそれをアルバム毎に、メンバー一体となって表現している。
マイルスと同じレベルで、モダン・ジャズを進化させ続けたミンガス・ジャズ。そんなミンガス・ジャズをもう一度、網羅的に体験したいと思い立った。今回は、遺作からキャリア初期に遡って、ミンガスのリーダー作を聴き直していく。逆に、そのアプローチの方が、ミンガス・ジャズの進化を感じ取れ易いと考えた。
Charles Mingus『Cumbia & Jazz Fusion』(写真左)。1976年3月はローマ、1977年3月はNYでの録音。ビッグバンド編成に、バズーンやオーボエ、イングリッシュ・ホルン、バスクラなど、木管楽器や多くのパーカッションを参入させているので、パーカッションの表記はオミットさせていただく。ドラムに永遠の相棒、ミンガスのベースの最高のパートナーであり、最高のリズム隊を構成するドラマー、ダニー・リッチモンドはちゃんといる。
LP時代の正式な収録曲は2曲のみ。A面を占める「Cumbia and Jazz Fusion」とB面を占める「Music for "Todo Modo"」の2曲。CDリイシュー時のボートラである「Wedding March/Slow Waltz」と「Wedding March/Slow Waltz [alternate take]」は蛇足な追加収録として、本来のアルバム作品としては不要なので、常にオミットして聴いている。
"Cumbia(クンビア)"とは、カリブ船沿岸の黒人たちが多く住みついた漁村を中心に広がった、南米の北端に位置するコロンビアを代表する音楽のことで、アフリカン・ネイティヴぽく長閑で土着的な響きが特徴。"Jazz Fusion"は、1970年代後半、「融合」のジャズとして一世を風靡した演奏トレンドのことを指すのだろうが、ここでは、ジャズの歴史的な演奏方法、演奏トレンドの全てが詰まっていて、それが違和感なくミックスされ、展開されていくミンガス・ジャズの「融合」を指すのだと思う。
1曲目の「Cumbia & Jazz Fusion」は、収録時間28分強、長尺の力作。その演奏は、クンビアの長閑でホンワカした演奏から、ハードなジャズ・オーケストラまで目眩く「ジャズ絵巻」。全体的にスピード感のある、非常に優れたジャズ・オーケストラ。クンビアの調べの存在が、この演奏には「ジャズのルーツ」を感じさせる、実に印象的な演奏になっている。クンビアとジャズの「融合」。僕はこの演奏が大好きだ。
2曲目の「Music For "Todo Modo"」は、トランペットやサックスのフロント楽器による映画音楽的なロマンティックなテーマ演奏から入ります。それが5分ほど経つと、ちょっと捻りの入ったフリーキーな演奏に早変わり。再び、映画音楽的なロマンティックなテーマ演奏に戻り、次にやって来るのは、正統派ハード・バップな演奏。ミンガスの骨太ベースが響き渡って、この2曲目の演奏は、ジャズの演奏トレンドの「融合」。ミンガス・ジャズの真骨頂である。
途中でダレない構成力と演奏力。この盤に詰まっているメロディーは、意外とキャッチャーであり、ソフト&メロウでもある。時に、フリーキーにアブストラクトにも展開するが、それはジャズが故の、即興演奏を旨とするジャズとしての必然でもある。ミンガスの考える「フュージョン・ジャズ」がこの盤に詰まっている。
ミンガスは、この素晴らしい内容の「融合」ジャズをものにしてリリースした後、翌年早々に鬼籍に入ることになる。潔いと言えば潔い、ミンガスと言えばミンガスらしい、最後のミンガス・ジャズの記録である。
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