チャーラップの個性を再確認
ジャズ・ピアノについては、ジャズの基本楽器のひとつとして、粛々と伝統は引き継がれている。フュージョン・ジャズのブームの時も、電子ピアノやシンセなど、鍵盤楽器の系譜はしっかりと引き継がれている。1980年代半ばの純ジャズ復古のムーヴィメント以降は、堅調に若手ピアニストが出てきて、現代においても、ジャズ・ピアニストはコンスタントに活躍している。
Bill Charlap(ビル・チャーラップ)。1966年10月15日、米国NY生まれ。音楽的に恵まれた環境で育った「サラブレット」。2000年前後でサイドマンとしてデビュー。1993年、27歳で初リーダー作をリリース。現代の若手ピアニストとしては、至って順調に活躍の範囲を広げている。ヴィーナス・レコードの企画型ピアノ・トリオ「ニューヨーク・トリオ」のピアニストでもある。
Bill Charlap『'S Wonderful』(写真左)。1998年12月26日、NYの「Clinton Recording Studio」での録音。ちなみにパーソネルは、Bill Charlap (p), Peter Washington (b), Kenny Washington (ds)。チャーラップの通算9枚目のリーダー作。日本のヴィーナス・レコードからのリリースで、この時点では、まだ米国での認知度は低かった。
この盤では、チャーラップは自らの演奏志向を前面に押し出している。盤全体の雰囲気、音の作りは、過度に耽美的でリリカルに傾倒すること無く、全くヴィーナス・レコードっぽくない。まるで、チャーラップのセルフ・プロデュース盤の様な演奏の雰囲気。ヴィーナス・レコードの録音志向である「深くて乾いたエコー」が良い方向に作用している。つまり、この盤、チャーラップのピアノの個性をしっかり確認出来る秀作なのだ。
チャーラップのピアノは「耽美的でリリカル、そしてバップなピアノ」。一聴するとビル・エヴァンスのピアノの様に感じるのだが、しばらく聴いていると、確かに「耽美的でリリカル、そしてバップなピアノ」なんだが、エヴァンスとは音の響き、和音の響き、フレーズの弾き回しが全く違うことに気付く。
エヴァンスの音の響き、和音の響き、フレーズの弾き回しを避けた「耽美的でリリカル、そしてバップなピアノ」なのだ。演奏全体の雰囲気はエヴァンス風なのだが、演奏内容は「エヴァンスの様でエヴァンスで無い」チャーラップ独自の個性が息づいている。
ベースとリズム隊は、長年のパートナーとなる2人。前作『All Through the Night』で出会った2人だが、チャーラップとの相性は抜群。もう長年連れ添った様な「あうんの」呼吸でリズム&ビートをコントロール出来る、優れたリズム隊。そんなベースとドラムに恵まれて、チャーラップは、独自の個性溢れるバップなピアノを気持ちよさそうに弾き進めていく。
この盤以降が、チャーラップの真骨頂。逆に言えば、チャーラップのピアノの個性を理解するには、この盤から始めるのが良い。選曲もヴィーナス・レコードらしくない、渋いジャズ・スタンダード曲が選曲されていて、ジャズの素人さんにウケる「どスタンダード曲」は見当たらない。これも「好感度アップ」なポイントで、チャーラップってジャズを判ってるなあ、と嬉しくなるのだ。
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