僕なりのジャズ超名盤研究・16 〜 『Kind of Blue』
モード・ジャズあるいはモーダル・ジャズ(modal Jazz)は、コード進行よりもモード(旋法)を用いて演奏されるジャズ。モダン・ジャズのサブ・ジャンルのひとつ。旋法とは、旋律の背後に働く音の力学。 旋法は主音あるいは中心音、終止音、音域などの規定を含む(Wikipedia より抜粋)。
モード奏法は、それまでのジャズ、いわゆる、ビ・バップ〜ハードバップにおける「コード進行によって限定される、アドリブ・パターンの画一化とマンネリ化」のブレイクスルーに貢献。コード奏法に比べて、アドリブ展開が穏やかになる懸念はあるが、アドリブ展開の柔軟度、自由度が飛躍的に高まった。
以上が、モード・ジャズの文章での説明であるが、やっぱり判り難い。クラシックの楽理なんかを、ある程度、基礎として理解していないと基本的に判らない。ジャズに楽理なんか必要ないよ、という声も聞こえるが、ジャズの演奏を深く理解する上では、楽理の助けは必須になる。その楽理を前提とした最初のジャズの奏法が「モード・ジャズ」だったと思う。
Miles Davis『Kind of Blue』(写真)。1959年3月、4月の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Cannonball Adderley (as), John Coltrane (ts), Wynton Kelly (p), Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds) 。このマイルス盤は、モード・ジャズの金字塔、いや、ジャズの金字塔の一枚とされる。トータル・セールスは実に1,000万枚を超えている、ジャズ界のモンスター・アルバムである。
いわゆる「モード・ジャズを採用した優れた成功例」であるというところが評価されているのだが、聴く側にとっては、モード・ジャズの採用、といった部分が、この盤の演奏のどの部分に当たるのかが判り難い。しかし、演奏全体の雰囲気が、それまでのビ・バップ〜ハードバップの演奏の雰囲気とは明かに違う、といったことは判るかと思う。
コード進行による劇的な進行変化、そして、アドリブ展開の決めフレーズ、といった、コード進行によるジャズの特徴、つまり、メジャー・コードからマイナー・コードに変わると、演奏される旋律の雰囲気はダイナミックに変化するし、定番のコード進行に乗って、定番のアドリブ・パターンが展開される。モード・ジャズにはこれらが無い。
モード・ジャズは、主音を基にした、自由度の高いアドリブ展開なので、コード奏法の様な音の「色の劇的な変化」が希薄。絵画で例えると、モノトーンの濃淡の様な、グラデュエーションの様な音の変化がモード・ジャズの特徴。モード奏法でのアドリブ展開は、このモノトーンの濃淡をベースとした展開になるので、例えば、墨絵の様な淡い濃淡の様な「音の拡がり」になる。
この辺りが、この『Kind of Blue』と、それまでのビ・バップ〜ハードバップの演奏の雰囲気と明らかに異なる理由になる。そんなモード・ジャズが、アルバム一枚分、ほぼ成功例で埋め尽くされた優れた内容の一枚が、この『Kind of Blue』。
ただ、聴いていて面白いのは、演奏メンバー全員がこのモード・ジャズを完璧に理解していたか、という点である。リーダーのマイルスとモード・ジャズ創成のパートナー、ビル・エヴァンスは十分理解していたことがこの盤の演奏を聴いていて良く判る。コルトレーンは、この盤の録音時点では、直感的に何となく理解していたのでは、と感じる。他のメンバーは、モード・ジャズを十分理解していたかどうかは疑わしい。ただ、モード・ジャズの「基本中の基本」はしっかり抑えた演奏になっているのはさすがだ。
それだけ、録音当時、モード・ジャズは、ジャズ界にとって「強烈なイノベーション」だったと思う。いわゆる、テクニックとスピリッツ、気合いで通用したそれまでのジャズが、楽理というアカデミックな要素を身につけないと理解出来ない奏法が出現したのだ。以降、ジャズマンにとって、モードに対応出来るか否かは重要な課題となっていく。
しかし、そんな「イノベーション」によって、ジャズは大衆音楽の1ジャンルから、アーティスティックな音楽ジャンルへステップ・アップした訳で、このモード・ジャズの成立は、ジャズの進化、ジャズの深化にとって、必要不可欠だった。
『Kind of Blue』は、そんな「事実」を十分に感じさせてくれる、モード・ジャズの金字塔、ジャズの金字塔の一枚である。
《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館 の更新状況》 更新しました!
★ AORの風に吹かれて 【New】 2022.03.13 更新。
・『AirPlay』(ロマンチック) 1980
★ まだまだロックキッズ 【New】 2022.03.13 更新。
・遠い昔、懐かしの『地底探検』
★ 松和の「青春のかけら達」 【New】 2022.03.13 更新。
★ コメント&TBは、全て「松和のマスター」が読んでから公開される仕組みです。表示されるまで少し時間がかかります(本業との兼ね合いで半日〜1日かかる時もあります・・・ごめんなさい)。公開されたくないご意見、ご感想はその旨を添えて送信してください。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
東日本大震災から11年4ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
« 僕なりのジャズ超名盤研究・15 | トップページ | 粋なラテン&フラメンコ・ジャズ »
コメント