ギルの考えるビッグバンド・ジャズ
「音の魔術師」の異名を取った。伝説のアレンジャー、ギル・エヴァンス(ギル・エヴァンス)。アレンジのベースは「ビッグバンド」。しかし、そのビッグバンドの楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、どれもがユニーク。他のビッグバンドには無い音が個性。そして、ソロイストの演奏スペースの広さ。アドリブ展開の自由度の高さが二つ目の個性。
『The Individualism of Gil Evans』(写真左)。1963年9月、1964年4月6日、5月25日、7月9日、10月29日の録音。パーソネルは、録音日によって大きく異なり、この盤は、ギル・エヴァンスのアレンジの妙を堪能するアルバムなので、ここでは割愛する。ちなみに邦題は『ギル・エヴァンスの個性と発展』。直訳は『ギル・エヴァンスの個人主義』。
Individualism = 個人主義、については、個人の自立を重く見た、個人の権利や自由を尊重するスタンスの意。よく日本語訳にある「自分勝手な」という含意はない。後方の日本語訳に「個性」があるので、それを取って「個性と発展」の和訳を充てたのだろう。
しかし、この盤での、それまでの「ビッグバンド」に無い、ギル・エヴァンス独特の楽器編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、演奏スペースの割り振り等を考えると、その唯一無二の個性ゆえに、「Individualism = 個人主義」の意の方が、すんなり入ってくる。従来のアレンジとはあまりにかけ離れた、あまりに個性的なアレンジではあるが、このギル・エヴァンスのアレンジも確実に「ジャズ・ビッグバンドのアレンジ」なのだ。
この盤で気をつけなければならないのは、CDの収録曲は9曲あるが、LP時代のオリジナル盤の収録曲は「The Barbara Song(1964/7/9)」「Las Vegas Tango(1964/4/6)」「Flute Song / Hotel Me(1963/9 + 1964/4/6)」「El Toreador(1963/9)」の4曲だけだということ。1963年9月、1964年4月6日、7月9日の録音から厳選されていて、5月25日と10月29日の録音からは採用されていない。
聴けば判るのだが、ギル・エヴァンスのアレンジの「Individualism = 個人主義」については、この4曲を聴けば良く理解出来る。それほど、この4曲は出来が良い。アレンジの優秀性と参加ミュージシャンのパフォーマンス、両者のバランスが取れた、絶妙な演奏の記録がこの4曲に詰まっている。楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニー、いずれも、ギル・エヴァンスにしか為し得ない音世界である。
この盤は、ギル・エヴァンスのビッグバンドの楽器の編成、音の重ね方、ユニゾン&ハーモニーなど、彼のオーケストレーションの成熟を記録した名盤である。「ギル・エヴァンスの考えるビッグバンド・ジャズ」がこの盤に詰まっている。
アコースティック楽器を使用した「ギル・エヴァンスの考えるビッグバンド」としては、これ以上のアレンジは無いのだろう。この盤は、ギル・エヴァンスを理解する上で、絶対の「必聴盤」である。まずは、CDの2〜5曲目から、しっかりと聴いていただきたい。
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