メルドーの考える「プログレ」
今や、ブラッド・メルドー(Brad Mehldau)は、現代ジャズ・ピアノの代表格。「キース・チック・ハービー」のジャズ・ピアノの第2世代の後継、第3世代の筆頭と言っても良い。
しかし、メルドーのピアノは、歴史的に著名なスタイリストの要素を多角的に取り入れつつ、自らの個性を添付しているスタイルなので、その個性が見えにくい。しかし、総合力を武器とするピアニストでは無い。明らかに、現代ジャズ・ピアノのスタイリストの1人であることは確かである。
加えて、メルドーは、他のジャンル、特にロック&ポップス畑の楽曲に着目し「ジャズ化」するのが得意である。しかもその「ジャズ化」がほぼ成功を収めているのだから凄い。
以前の第2世代のピアニストにも、ロック&ポップス畑の楽曲の「ジャズ化」を目論んだケースもあったが、基本的に成功を収めた例は少ない。ロック&ポップスの楽曲の持つキャッチャーなメロディーを踏襲しすぎて、ジャズの本質である「即興性=アドリブ展開」を置き去りにした失敗例が多い。
Brad Mehldau『Jacob's Ladder』(写真左)。2022年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Brad Mehldau (p, key,sinth, etc.), Mark Guiliana (ds), Becca Stevens, Pedro Martins (vo), Joel Frahm (ss), John Davis (ds programming), Chris Thile (mandolin) etc.。ブラッド・メルドーがマーク・ジュリアナのサポートを得て制作した電子音アプローチの第3弾。
往年のプログレッシヴ・ロック(以降、略して「プログレ」)好きのメルドーによる、プログレからの音楽的インスピレーションをジャズに交えて、プログレの楽曲を「ジャズ化」した、実にユニークなリーダー作。プログレを「ジャズ化」するのだから、電子音アプローチを採用しているのか。なるほど、と至極納得である。
メルドーは次のように語る。「ラッシュやジェントル・ジャイアント、エマーソン、レイク&パーマーらによるプログレは、ジャンルがもつコンセプト性、コンセプト的な部分、そして感情的な部分の幅を示唆している」。確かに、プログレはジャズに通じるものが多い。僕も高校時代はバリバリの「プログレ小僧」だったので、それが良く判る。
この『Jacob's Ladder』は、ジャズ側から見た「プログレ」。音の全体の雰囲気はジャズだが、演奏自体は「プログレ」そのものと言って良い位だ。2曲目「Herr und Knecht」は、まるでEL&P。ラストの「Heaven」については、耽美的なピアノ・フレーズに続いて,Yesの「Starship Trooper」の「Life Seeker」が出てくる。その他、Rush, Gentle Giant, Peripheryをカヴァーしている。
う〜ん、このメルドーの新盤、純粋にジャズ盤として取り扱って良いのやら(笑)。メルドーが表現する「ジャズの衣を着たプログレ」かな。プログレを聴き親しんだ「プログレ小僧」にとっては、ジャズというよりは、純粋にプログレに聴こえる。
そうか、演奏の底のリズム&ビートが「プログレの持つ変拍子の複雑なリズム」を取り入れているからか。そう、この盤のリズム&ビートは「ジャズ」とはちと違うのだ。これが、恐らく、妙な違和感の理由だろう。
しかし、現代ジャズ・ピアノの代表格のブラッド・メルドー、良い意味で「厄介な」アルバムをリリースしたもんだ。恐らく、ジャズ者の方々の中では賛否両論だろうなあ。僕は「これはアリ」です。僕の頭の中では「ジャズ ≒ プログレ」ですから。何も「プログレ」はロックでしかやってはいけない、なんて決まりも無いですしね。僕は楽しんで聴くことが出来ました。
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