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2022年5月28日 (土曜日)

ECMの次世代を担うピアニスト

ピアノ・トリオについては、21世紀に入って、演奏志向の「二極化」が進んでいるのではなかろうか、と思っている。

米国では「ハードバップの現代版」である「ネオ・ハードバップ」志向のピアノ・トリオが主流。それもピアノの個性としては「総合力で勝負する」タイプが殆どを占める。強烈な個性というよりは、コードやモード、ファンキー、ソウルなどのジャズ演奏のトレンドを総合して、新しい響きのハードバップを演奏する志向が強い。

欧州では、1970年代からの「ニュー・ジャズ」志向の音世界がしっかりと継承されていて、耽美的でリリカルなジャズ・ピアノについては、欧州で深化している。ピアニストの個性としては、現代音楽風、現代クラシック風の透明度の高い、硬質なタッチで、耽美的でリリカルなピアノを志向するタイプが多い、というか、バップなピアノを志向するピアニストは少数派。

そんな耽美的でリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のピアノ・トリオについては、欧州ジャズ・レーベルの老舗中の老舗、ECMレーベルに多く存在する。創立者のマンフレート・アイヒャーの音の志向が「西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた、アコースティックな表現を基本とした耽美的でリリカルな音」。ECMレーベルは1970年代から、ずっと耽美的でリリカルなジャズ・ピアノをコンスタントに制作している。
 

Vermillion

 
Kit Downes, Petter Eldh, James Maddren『Vermillion』(写真左)。2021年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Kit Downes (p), Petter Eldh (b), James Maddren (ds)。新盤のキャッチコピーが「次世代ECMを担う、注目の英国発のピアニストのピアノ・トリオ作品」。英国出身のピアニスト、今年36歳のキット・ダウンズをメインに、スウェーデン出身のベーシスト、ペッター・エルドと同じ英国人ドラマー、ジェームズ・マドレンとが組んだピアノ・トリオの新盤。

明らかにECMレーベルのピアノ・トリオの「今の音」が詰まった優秀盤。欧州で脈々と継承される、耽美的でリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のピアノ・トリオの「今」がこのトリオ盤に宿っている。冒頭の「Minus Monks」を聴けば、そこは既に「耽美的かつリリカル」な音世界。どこかエスニック風でもあり、どこか牧歌的でもあり。どこか、チックやキースの香りがしたり、バイラークやキューンの響きがしたり。しかし、個性の基本はダウンズのオリジナル。

時折、幽玄な音世界を漂ったり、硬質な現代音楽的な無調のインタープレイに走ったり、時に、フリーのマナーも見え隠れする、ネオ・ハードバップとは対極に位置する耽美的でリリカルな「ニュー・ジャズ」志向のピアノ・トリオ。そこに、しっかりとECMエコーがかかって、耽美的でリリカルな音世界に拍車をかける。

実にECMレーベルらしい、ピアノ・トリオ盤である。さすがECMレーベル、まだまだ健在である。
 
 

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