Simon Phillips『Protocol V』
ホールズワースの初リーダー作や、マクラフリンのライブ盤を聴いていて、ふと、ギタリストがリーダーでは無いが、ホールズワースやマクラフリンの様な「ハードなクロスオーバー&ジャズロック」なバンドの存在を思い出した。ドラムのレジェンド、サイモン・フィリップスのソロ・プロジェクト 「プロトコル」である。
この「プロトコル」は、1988年から続いているのだが、これまでに4枚のアルバムをリリースしている。どれもが「ハードなクロスオーバー&ジャズロック」で、聴いていて、ホールズワースやマクラフリンの音世界を彷彿とさせる。そんなサイモン・フィリップスのソロ・プロジェクトが、今年の3月、前触れなく、5枚目のアルバムをリリースしたのだから、思わずビックリした。
Simon Phillips『Protocol V』(写真左)。2022年3月のリリース。ちなみにパーソネルは、Simon Phillips (ds), Otmaro Ruiz (key), Jacob Scesney (sax), Alex Sill (g), Ernest Tibbs (b)。
2017年の『プロトコルIV』以来、約5年振りとなる新盤。ドラマーのサイモン・フィリップスがリーダーのアルバムながら、内容は、エレギとサックスとキーボードがメインの「ハードなクロスオーバー&ジャズロック」である。
もともとはロック畑のドラマーで、マイケル・シェンカー・グループ、ホワイトスネイクやザ・フーといった錚々たるグループで活躍してきたサイモン・フィリップス。ベースのアーネスト・ティブスは、前作にも参加した、サイモン・フィリップスの良き相棒。
キーボードのオトマロ・ルイーズは、元ジョン・マクラフリン・バンドのメンバー。サックスのジェイコブ・セスニーは、ロベン・フォードやクリスチャン・スコットと共演し、ポストモダン・ジュークボックスにも参加している逸材。ギターのアレックス・シルは期待の若手。
サイモン・フィリップスは、今年で65歳。もうレジェンド級のドラマーなのだが、この新盤の音世界はとことん「尖っている」。まず、ギターのアレックス・シルの、とにかくプログレッシヴ・ロックっぽく、ハードでほどよく捻れたクロスオーバー風のエレギが「尖っている」。
同じフロントを担う、ジェイコブ・セスニーのサックスも、プログレッシヴ・ロックっぽく、ハードで捻れたクロスオーバー風のサックスが「尖っている」。ルイーズのキーボードは、しっかりと「クロスオーバー・ジャズ」に軸足をしっかり置いた、ジャジーなもの。決して、プログレッシヴ・ロック志向では無い。
そんなエレギとサックス、キーボードをサイモン・フィリップスのドラムが鼓舞し、リードする。サイモン・フィリップスのドラムはジャズロック。ジャジーでロックっぽい。フィリップスのドラムがジャジーになると、演奏全体はクロスオーバー志向となり、フィリップスのドラムがロックになると、演奏全体はロック志向になる。演奏全体をフィリップスのドラムがコントロールしているのが良く判る。
さすが、サイモン・フィリップスは、英国ロンドン出身のドラマー。この『Protocol V』の音は、プログレッシヴ・ロックとクロスオーバー・ジャズとの境界が曖昧な英国ジャズロックの音世界そのものであり、それがこの「プロトコル」の最大の個性。僕はこの音世界が意外と気に入っていて、意外とこの『Protocol V』、緩やかなヘビロテ盤になっている。
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