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2022年4月 9日 (土曜日)

コンテンポラリーなデュオ演奏

Denny Zeitlin(デニー・ザイトリン)。「医師とジャズ・ピアニスト」という二足の草鞋を履く異色の人物。しかも、医師は医師でも精神科医。これは異色中の異色な存在。本業である精神科医の仕事をこなす傍ら、プロのピアニストとしての活動も続けてきたザイトリン。しかも双方の仕事において、それぞれ一流の域に達していたと言うのだから凄い。ザイトリンは1938年の生まれ。今年で84歳になる。もはやベテラン中のベテラン、伝説の域である。

ザイトリンのタッチは深く、しっかりと端正に弾きまくる様はエバンス・ライクな個性なんだが、アドリブ・フレーズが全く異なる。アドリブ・フレーズが流麗では無いというかメロディアスでは無い。ザイトリンのアドリブ・フレーズはゴツゴツしていて変幻自在。柔軟性が高く、幾何学模様の様なカクカクしたフレーズ。セロニアス・モンクの様な、ちょっとアウトドライブする突飛なフレーズ。エバンスのアドリブ・フレーズは流麗だが、ザイトリンのアドリブ・フレーズは幾何学模様。

Denny Zeitlin & George Marsh『Telepathy』(写真左)。2021年8月のリリース。ちなみにパーソネルは、Denny Zeitlin(p, hardware & virtual, synth, key), George Marsh(ds, perc)。ザイトリンとマーシュのデュオ演奏。そんなデュオ演奏について、2014年〜2019年に録音された音源を集めた盤。2人が共演した「The Moment (2015) 」『Expedition (2017)』に続く3作目のアルバムになる。
 

Telepathy_denny-zeitlin-george-marsh

 
パーカッションやドラムセット、アコースティック・ピアノや多くのキーボード、シンセサイザー、コンピューター等の電子機器を使用した、コンテンポラリーな「ニュー・ジャズ」志向のデュオ演奏は、新しい響き、新鮮な響きが満載。アコースティックに拘らない、21世紀の現時点での「楽器」を駆使した、新しい響きのデュオ演奏は聴き応えがある。アルバムの宣伝キャッチには「即興エレクトロ・ミュージック」とあるが、確かに「言い得て妙」である。

電子楽器を駆使した即興デュオが素晴らしい。特に、マーシュのドラム&パーカッションがデュオ演奏のリズム&ビートを積極的にコントロールしている。そのリズム&ビートの上をザイトリンのキーボードが様々な表現をもって即興展開する。アドリブ・フレーズが幾何学模様に展開するところなどは圧巻ですらある。シンセサイザーをはじめとするキーボード系の電子楽器が、これほどの表現力を持っているとは、改めて感心した。ザイトリンの電子楽器に関する理解力が相当に深いのだろう。

緩んだところや冗長なところが全く無い、適度にテンションを張った、切れ味の良い即興デュオ演奏である。スピード感も適度にあって、収録曲14曲があっという間。デュオ演奏なので、お互いに出す技やフレーズが枯渇して、曲が進むにつれ、マンネリに陥ることがあるが、このデュオ演奏にはそれが全く無い。イマージネーション豊かで多彩な技を備えた極上のデュオ演奏である。
 
 

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