Miles Davis『In a Silent Way』
マイルス・デイヴィス(MIles Davis)は、ジャズを聴き始めた時からの「僕のアイドル」。特に、エレクトリック・マイルスの音世界は大好き。振り返ってみると、マイルスの主要な名盤については、当ブログで約10年から15年前に記事が集中していて、今、読み返すと、言葉足らずや表現足らず、情報足らずの部分が多々あるので、今回、エレ・マイルスの諸盤から補訂再掲することにした。今日は「マイルスがエレ・マイルスを確立した盤」。
Miles Davis『In a Silent Way』(写真左)。1969年2月18日の録音。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ss), John McLaughlin (el-g), Chick Corea (el-p), Herbie Hancock (el-p), Joe Zawinul (el-p, org). Dave Holland (b), Tony Williams (ds)。1960年代黄金のクインテットからロン・カーターが抜け、エレギのマクラフリン、エレピのザヴィヌル、ベースのホランドが追加参加している。
パーソネルを見て、この盤は「エレ・マイルスを確立した盤」だと感じる。前作でマイルスは確信した。エレ・ジャズにはエレ・ジャズの演奏の仕方、表現の仕方があるということを。電気楽器には電気楽器なりの感性と弾き方があるということを、エレ・ジャズには、エレ・ジャズなりの演奏テーマや演奏スタイルが必要なことを。アコ・ジャズで実績を出してきたメンバーが、エレ・ジャズもそのままいけるかと言えばそうじゃないということを。
ただ、マイルスとしては、1960年代黄金のクインテットのメンバーは「代え難い存在」だったのだろう。何とかエレ・ジャズをものにして貰いたい、とロン以外をしっかりと残している。しかし、エレギについては、プログレッシヴなギタリスト、マクラフリンが、ベースについては、エレベ独特の感覚をアコベで弾きこなすホランドが、キーボードについては、エレピ独特の弾き回しが個性のザヴィヌルが参加して、確実に「エレ・マイルス」の表現方式を固めている。
この盤で確立された「エレ・マイルス」は、エレクトリック楽器の特性・響きをしっかりと捉えて、ジャズの統制のとれたグループ・サウンズの中で、インプロビゼーションの自由度が圧倒的な「希有な成果」。LP時代A面の「Shhh / Peaceful」を聴けば、それを直ぐに実感出来る。この「Shhh / Peaceful」の演奏の中に、1960年代のモーダルな演奏は欠片も無い。明らかに新しい、8ビートが「必然」のインプロビゼーションが展開されている。
LP時代B面の「In a Silent Way / It's about That Time」も素晴らしい。冒頭「In a Silent Way」の牧歌的な響き。ビートの無い、ただただ漂う様なモードの響き。そして、打って変わって、8ビートをベースとしたポリリズムを基に、躍動的なモードの響き。
決して派手派手しくない、どちらかと言えば、クールで冷静なポリリズムのビートなんだが、しっかりと躍動感が伝わってくる。ジャズとしての創造性が圧倒的。ビートの無い、漂う様な「In a Silent Way」と躍動感溢れるビートがベースの「It's about That Time」の対比。好対照な演奏イメージの対比。美しい。
この『In a Silent Way』は、マイルスのセッションの録音を、プロデューサーのテオ・マセロがテープ編集を駆使して出来上がった、いわゆる「テープ・コラージュ」の成果だと言われる。決して、マイルスの音楽的成果では無い、と。
しかし、ボックス盤『The Complete In a Silent Way Sessions』に収録されている、オリジナルの「In a Silent Way」と「It's About That Time」の演奏だけでも十分に名曲・名演であることが実感出来る。現代においても、この2曲のオリジナル演奏は、エレクトリック・ジャズの先端を行く演奏である。現代においてしても、これだけの演奏を追求できるバンドは殆ど無い。
恐らく、LPは片面25分程度しか収録出来なかったので、そのLPの片面の収録時間に合わせて、テオ・マセロが巧みにテープ編集したのではないか、と睨んでいる。
このテオ・マセロの「テープ・コラージュ」のお陰で、マイルスの思い描いていた音楽的イメージが、しっかりと起承転結をなす「一つの曲」として、はたまた、「一つの曲」としてのライブ演奏として、十分に音楽的成果として成立するものだ、ということが証明された、と言えるだろう。
8ビートをベースとしたポリリズムを基に、躍動的なモード演奏が長尺の演奏として成立するんだ、ということが、このテオ・マセロの「テープ・コラージュ」で証明された。
『In a Silent Way』、「エレ・マイルス」のプロトタイプがここにある。この演奏に漂う「適度な緊張感」と「クールな躍動感」、そして「広大で自由なインプロビゼーション・スペース」。以降の1970年代、「エレ・マイルス」のベースとなるプロトタイプがここに提示されている。
この『In a Silent Way』の成果を基に、ジャズ・ミュージシャンに対して、相当に卓越した創造性と演奏テクニックが求められる、かなりハイレベルな、電気楽器を最大限に活用するに相応しいエレ・ジャズに、マイルス・デイヴィスはチャレンジしていくことになる。
この盤は、私が「エレ・マイルス」に初めて触れたアルバム。これは30年以上経った今でもしっかりと覚えている。「エレ・マイルス」は、ジャズ者初心者の方々には、ちょっと理解しにくいかと思う。1970年代のプログレッシブ・ロックを聴き込んだ経験のある方々には、意外と入りやすいかも。ちなみに私もそうだった。
感動に次ぐ感動。ジャズという音楽ジャンルが、ここまで自由で、ここまでクリエイティブな音楽表現ができるとは思わなかった。フリージャズなんて目じゃない。これだけ統制のとれたグループ・サウンズの中で、圧倒的に自由度のあるインプロビゼーションの嵐。ジャズという音楽ジャンルにドップリはまる切っ掛けを作ってくれた、僕にとって凄く重要なアルバムである。
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