Miles Davis『Filles De Kilimanjaro』
マイルス・デイヴィス(MIles Davis)は、ジャズを聴き始めた時からの「僕のアイドル」。特に、エレクトリック・マイルスの音世界は大好き。振り返ってみると、マイルスの主要な名盤については、当ブログで約10年から15年前に記事が集中していて、今、読み返すと、言葉足らずや表現足らず、情報足らずの部分が多々あるので、今回、エレ・マイルスの諸盤から補訂再掲することにした。
さて、『Miles in The Sky』でいきなり、エレクトリック・ジャズに転身したマイルス。冒頭の「Stuff」が8ビート+電化ジャズ。マイルス初の8ビート・ナンバー。他の曲を含めて、この盤はマイルスの8ビート採用とエレ・ジャズへのチャレンジであった。そして、続くエレ・マイルスの2枚目がこれ。
Miles Davis『Filles De Kilimanjaro』(写真左)。邦題『キリマンジャロの娘』。1968年6月のセッションのパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b), Tony Williams (ds)。「Petits Machins (Little Stuff) 」「Tout De Suite」「Filles De Kilimanjaro」の3曲が演奏されている。
そして、1968年9月のセッション。パーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Chick Corea (el-p), Dave Holland (b), Tony Williams (ds)。黄金のクインテットから、Herbie Hancock (el-p), Ron Carter (el-b)が抜けて、チックとホランドに代わっている。 「Mademoiselle Mabry」「Frelon Brun」の2曲が演奏されている。
この2つのセッションが収録されているところがこのアルバムの重要なポイント。マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏は、ハービーがエレピ(フェンダー・ローズ)を弾き、ロンはエレベ(電気ベース)を弾く。しかし、エレピもエレベも、それぞれの電気楽器独特の特性や響きを活かした弾き方にはなっていない。演奏全体の雰囲気はアコースティック・マイルスと変わらない。というか、ハービーもロンも半信半疑、手探り状態でのパフォーマンスに終始している様で、ちょっと気の毒になる。
でも、ビートは8ビートである。この マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏を聴いていると、ジャズは4ビートだけではなく、8ビートでもしっかりとジャズになるということが良く判る。8ビートに乗って、モーダルな演奏も全く問題無く展開し、このアルバムでは、実にアーティステックで、かなり自由度の高いモーダルな演奏が繰り広げられている。
このマイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏の3曲を聴いていると、この演奏は8ビートであり、ハンコックはエレピを弾き、ロンはエレベを弾いてはいるが、内容的にはアコースティック・マイルスの限りなく自由度の高いモーダルな純ジャズな演奏と変わりが無い、言って良い。でも、その演奏レベルたるや、限りなく自由度の高いモーダルな純ジャズな演奏の中でも最高峰の演奏である。これはこれで凄い。
しかし、1968年9月のセッション、チックとホランドが参入したエレ・マイルスな演奏は、マイルスの60年代黄金のクインテットでのエレ・マイルスな演奏とは明らかに異なる。チックのエレピ、ホランドのアコベ、どちらともエレクトリック前提の、エレクトリック楽器独特の響きを宿している。チックのエレピ(フェンダー・ローズ)は、その楽器の特性と響きを活かした、エレピ独特の弾き回しと雰囲気を実現している。そして、ホランドはアコベを弾いているんだが、弾き方は明らかにエレベのテイストになっているのが興味深い。
ここでマイルスは知る。アコースティック・ジャズはアコースティック・ジャズなりの演奏の仕方、表現の仕方があり、エレクトリック・ジャズにはエレクトリック・ジャズの演奏の仕方、表現の仕方があるということを。エレクトリック楽器にはエレクトリック楽器なりの感性と弾き方があるということを、エレクトリック・ジャズには、エレクトリック・ジャズなりの演奏テーマや演奏スタイルが必要なことを。
つまり、演奏するメンバーは適材適所。アコ・ジャズで実績を出してきたメンバーが、エレ・ジャズもそのままいけるかと言えばそうじゃないということ。そして、8ビートでも、アコ、エレ共に確実にジャズになるということ。8ビート=エレクトリック・ジャズ、4ビート=アコースティック・ジャズでは無いということ。
前作『Miles in The Sky』の兄弟盤の様な『Filles De Kilimanjaro』。この2枚のエレ・マイルス黎明期のアルバムで、エレ・マイルスの表現コンセプトが固まったのではないか、と感じている。
先人の実績の全く無い、1968年当時のエレクトリック・ジャズ。マイルスは次作『In A Silent Way』で、エレクトリックならではの、マイルスならではのエレクトリックな演奏を展開することになる。そのコンセプトの基本は、この『Miles in The Sky』と『Filles De Kilimanjaro』の2枚に散りばめられているのだ。
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