インプロヴァイザーとしての頂点 『Focus』
コロナワクチン第3回目接種の副反応のお陰で、スタン・ゲッツ(Stan Getz)のリーダー作を聴き直せた。発熱したのだが、病気での発熱では無いので、意識はハッキリしてるし、体力もある。つまり、床に入っても相当に暇なのだ。こういう時にiPhoneが役に立つ。Musicで選盤して、Bluetoothで音を飛ばして、ミニ・スピーカーで聴く、という仕組みで、2日間でかなりの枚数のアルバムを聴くことが出来た。
Stan Getz『Focus』(写真左)。邦題『焦点』。1961年7月14日、ストリングスとゲッツ。1961年7月28日、ストリングスのみ。1961年9〜10月、ゲッツのパートのみオーバーダビング。ちなみにパーソネルは、Stan Getz (ts), Steve Kuhn (p), John Neves (b), Roy Haynes (ds) のゲッツのワンホーン・カルテットに、Alan Martin, Norman Carr, Gerald Tarack (vln), Jacob Glick (viola), Bruce Rogers (cello) のストリングスが共演。
不思議な雰囲気の「ウィズ・ストリングス」盤である。まず、「ウィズ・ストリングス」盤独特のムーディーな雰囲気が皆無。イージーリスニング・ジャズ志向な音作りは全く無く、ラウンジ・ジャズ風のアレンジは全く無い。
スタン・ゲッツ自身がこのレコードに対し、死の前年にインタビューで語っている言葉を読むと、その「不思議な雰囲気」の理由が良く判る。「音楽がまったく書かれていない、ただ、僕(ゲッツ自身)のキーに楽譜が移調されているだけのストリングスに合わせて演奏するというのはね。このレコーディングには大変な努力を要した」と。
つまり、コード進行に基づいて演奏したのでなく、ストリングスによるモチーフに自由に絡むように、サックスを演奏したものである、ということ。ゲッツの評伝ではこれを「オーネット・コールマンの手法」だと表現している。
つまりは、ストリングスをモチーフにした「ゲッツの考えるフリー・ジャズ」ということになる。実母の逝去でスタジオ入りできなかったため、全7曲中4曲については、実はゲッツだけオーバーダビングだが、それでも「ストリングスによるモチーフに自由に絡むように、サックスを演奏したもの」であることには変わりが無い。
この盤でのゲッツはいつにも増して、豊かなイマージネーションによる優れたアドリブ・フレーズを吹きまくっている。運指テクニックも抜群、淀み迷いは一切感じられない、ストレート・アヘッドなアドリブ・フレーズの数々。表現も豊かの限りを尽くして、変幻自在、硬軟自在、弛緩自在、当時最高のインプロヴァイザーの1人であると言うことを再認識する。
ゲッツのインプロビゼーション「だけ」が印象に残る、ゲッツの「ほとんどフリーな自由度の高いインプロビゼーション」が素晴らしい盤であり、ゲッツのインプロヴァイザーとしての頂点を記録した「ウィズ・ストリングス」盤である。
ただ、ゲッツはこのイメージで暫く吹くのかと思いきや、この盤を録音した翌年には、チャーリー・バードとの『Jazz Samba』を録音、以降、ボサノバ・ジャズの第一人者のイメージで、1960年代以降を駆け抜ける訳で、この「ほとんどフリーな自由度の高いインプロビゼーション」が二度と聴け無かったのは、惜しいと言えば惜しいことであった。
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