フュージョンの歴史の記録
フュージョン・ジャズの始まりはどこか、なんて議論が昔あった。クロスオーバー・ジャズは判り易かった。基本的に、ジャズにロックの要素を取り込む、ジャズにクラシックの要素を取り込むのが、クロスオーバー・ジャズ。大多数、ジャズにロックの要素を取り込み、8ビートな演奏を展開するのが主流。楽器はエレギ、エレベ、エレピ、シンセなどの電気楽器がメインだった。
そこに「ソフト&メロウ」な要素を強調したクロスオーバー・ジャズを「フュージョン・ジャズ」と呼ぶようになった、という記憶がある。実は、このフュージョン・ジャズの大ブームは、リアルタイムで体験していて、実感としては1970年代半ば辺りから、フュージョン・ジャズが台頭しだした感覚がある。FMでもフュージョン・ジャズが率先してオンエアされていた。
Mike Mainieri And Friends『White Elephant』(写真)。1972年の作品。ちなみにパーソネルは、Mike Mainieri(key,vo,per,arr), Joe Beck(g), Warren Bernhardt(key), Michael Brecker(ts), Randy Brecker(tp), Sam Brown(g), Ronnie Cuber(bs), Jon Faddis(tp), Steve Gadd(ds), Tony Levin(b), Donald MacDonald(ds), ,Lew Soloff(tp), David Spinozza(el-g,ac-g), Ann E. Sutton(vo), Frank Vicari(ts), George Young(as)等々、後のフュージョン・ジャズの中で活躍するメンバーばかりがズラリ。
フュージョン・ジャズの「最大の幻の名盤」といわれたアルバム。もともとは自主制作のような形でリリースされたオリジナルLPで、1000枚程度しかプレスされなかった。マスターテープが発見され、1994年に未発表曲入りでCDにてリイシューされた時は、フュージョン・ジャズの起点ともいえる歴史的な問題作という触れ込みで、大きな話題を呼んだ。
内容はといえば、ジャム・セッション風の演奏のオンパレード。マイク・マイニエリいわく「く自然発生的に、全く実験的に作られたもの」。1972年という時代に立ち戻って、この盤の音を聴くと、こういうサウンド・アプローチをしたバンドやジャンルは無かったと思う。具体的には、ソウル・ジャズの電気化、R&Bのジャズ・ロック化、ジャズとロックの融合、ジャズのダンス・ミュージック化、など、当時としては、かなり先進的なアプローチである。
演奏レベルは荒削りなものが多い。かなり時代を感じさせるものもあって、この「洗練されていない」がネックだった。電気楽器はまだまだ発展途上だったし、電気楽器の録音技術もまだまだだった。当然、フュージョン・ジャズ全盛期の音を知る人がこの盤の音を聴くと、そっぽを向くだろう。しかし、サウンド・アプローチは先進的でセンスが良くて「粋」。当時としては「早過ぎた」のかもしれない。
後のフュージョン・ジャズにおいて、多用されるコーラス・アレンジや、ブラス・アレンジのサンプルがこの盤に散りばめられており、電気楽器の有効活用の「志向」についても、後のフュージョン・ジャズの諸作で、当たり前の様に応用されている。ただ、売れるようになるには、電気楽器と録音技術の劇的な進歩が必要だった。その劇的な進歩の成果を日常で活用するようになったのが、1970年代半ばなのだ。
この『White Elephant』は、フュージョン・ジャズの貴重な歴史の記録である。通常のジャズ者の方々にはあまりお勧めしない。フュージョン・ジャズのマニア、いわゆる「フュージョン者」の方々は、どこかでこの盤は一度は聴いて欲しい。フュージョン・ジャズは「時代の徒花」「商業主義ジャズの代表格」と散々揶揄されてきたが、この盤を聴くとその感覚も変わるかと。当時の若手ジャズマンが知恵を絞り、一生懸命考えた、新しいサウンド・アプローチのジャズのプロトタイプがこの盤に詰まっている。
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