ヴィクター・フェルドマンの個性
ジャズのアルバム蒐集の中で「ジャケ買い」という言葉がある。アルバムの内容を全く知らない状態で、店頭などで見かけたジャケットの好印象だけでアルバムをゲットするという行為を指すのだが、ジャズのアルバムについては、この「ジャケ買い」が意外と良く当たる。ジャズ盤には「好盤には好ジャケット」という法則が存在する位だ。
しかし、当然、その逆も存在する訳で「こんなジャケットで内容が良い訳がない」と判断して、そのアルバムをジャケットのイメージだけで、敬遠する事だってある。いわゆる「逆ジャケ買い」である(笑)。ジャズ盤には、これはなあ、と呆れるイメージのジャケットもある訳で、こういう「逆ジャケ買い盤」は、ジャズ盤紹介本などで内容が良い事を確認していても、特にLP時代は、レコード屋のカウンターに持って行くのには、かなりの勇気が必要だった。
『The Arrival of Victor Feldman』(写真左)。1958年1月21 & 22日、LAでの録音。ちなみにパーソネルは、Victor Feldman (vib, p), Scott LaFaro (b), Stan Levey (ds)。ヴァイブとピアノの二刀流、ヴィクター・フェルドマンのトリオ盤である。ベースに伝説の早逝ベーシスト、スコット・ラファロの名前がある。ドラムは、西海岸ジャズの燻し銀ドラマー、スタン・レヴィーが担当している。
このジャケットを見れば、まず進んで購入する気にはならないだろう(笑)。この盤は、フェルドマンが英国から米国LAへ移住したタイミングで録音されたトリオ盤なので「ヴィクター・フェルドマンの到着」となっている。つまり、米国西海岸に来たぞ、という意味なんだが、それが、このお茶目なジャケットになるかなあ(笑)。とにかく、このジャケットは「キワモノ」。でも、内容的には、フェルドマンのピアノとヴァイブの個性がとても良く判る、充実したものになっている。
ヴィクター・フェルドマンのピアノは、音数を選んだ、シンプルでスピード感が爽やかなフレーズが個性。言い換えると、レッド・ガーランドのピアノからファンクネスを半分減じた感じ。後にマイルスがガーランドの後任候補として目を付けたのも頷ける。ちなみに、マイルスの十八番チューンの「Seven Steps to Heaven」はフェルドマン作である。フェルドマンはLAでのスタジオワークを優先すべく、マイルスの誘いを断っている。その代わりにマイルスの下に参加したピアニストがハービー・ハンコック。
そんなフェルドマンのピアノを堪能出来る。改めて、聴き耳を立ててみると、フェルドマンのピアノの「爽やかなスピード感」が印象に残る。流麗という表現とは異なる、クールで爽やかな滑らかさは、フェルドマン独特の個性だろう。フェルドマンのヴァイブはピアノと同じイメージの「クールで爽やかな滑らかさ」が個性。ファンクネスが皆無のヴァイブは硬質な透明感だけが残って、まるで欧州ジャズの様な響き。これまた、ファルドマン独特の個性だろう。
この盤、スコット・ラファロのベースを聴くべき盤とする向きもあるが、確かに、この盤でのラファロのベースはハイテクニックで唄うが如くのベースは素晴らしい。しかし、トリオ演奏におけるインタープレイを前提に考えると、あまりに前面に出すぎて、バランスに欠ける。とにかく、俺は凄いんだ、という感じの自己顕示欲が滲み出るベースで、「トリオ演奏の中でのベース演奏」として聴くと、ちょっと前へ出過ぎかな、と思う。ラファロのベースだけを聴く、という向きには、確かに最適のアルバムの一枚ではある。
しかし、このジャケット、誰が考えたのだろう。ユーモアがあって面白い、という評価もあるが、今の審美眼で見直してみても、これはちょっと酷いなあ、と思ってしまうのだ(笑)。
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