「あの人は今」的ジャズマンです
ジャズの世界にも「あの人は今」が存在する。ジャズ雑誌などで華々しく取り上げられ、評論家からちやほやされ、何枚かのリーダー作が売れた後、その名が忘れ去れて幾星霜。そういえば、あのジャズマン、何処へ行ったんだろう、と思い出す。そんな「あの人は今」的ジャズマンが幾人かいる。
Gary Thomas『Seventh Quadrant』(写真左)。1987年の作品。enjaレーベルからのリリース。ちなみにパーソネルは、Gary Thomas (ts, fl), Paul Bollenback (g, syn), Renee Rosnes (p), Anthony Cox (b), Jeff "Tain" Watts (ds)。フロント管はサックス&フルートのみ。ギター入りのクインテット編成。
リーダーのGary Thomas(ゲイリー・トーマス)は、1961年、米国メリーランド州ボルチモア出身のサックス&フルート奏者。今年で62歳のベテラン・ジャズマン。1986年末からマイルス・デイビスのグループに1987年3月まで在籍。その後、ジャック・ディジョネットのバンド、スペシャル・エディションのメンバーとして頭角を現す。M-BASE派(ブルックリン一派)人脈の一人として、1990年代に活躍したが、21世紀に入って、とんとその名を見ることは無くなった。
そんなトーマスの初リーダー作がこの『Seventh Quadrant』。パーソネルを見渡すと、M-BASE派に纏わる人材で固められている。ということは、演奏内容は明確に「M-BASE派の音」。トーマスは当初は新伝承派でしたが、スペシャル・エディションの参加などを経て、M-BASE派へと、音の志向が変化していったようだ。
1980年代半ば、純ジャズ復古以降、ウィントン・マルサリスが主導した「ハードバップの復古」である新伝承派。しかし、その新伝承派の音作りはその反動として「単に形式的に懐古趣味に陥っているだけなのでは?」というアンチ新伝承派のムーヴメントを生み出し、そのアンチ新伝承派を主導したのが「M-BASE派」。
この盤には、そんな「M-BASE派の音」が詰まっている。つまりは、M-BASE派の音を体感するには最適なアルバムと言える。「M-BASE派の音」とは変拍子の複雑なリズムを取り入れ、バップやモードというジャズの伝統的な語法を使用しないで演奏形式の革新を目指したもの。
ジャズを基調に,ラップやソウル,ファンク音楽やエスニック音楽など,その時代時代で隆盛を極めた音楽スタイルを取り入れたジャズといって良いかと思う。なんだか、エレ・マイルスに似ている。アンチ新伝承派なので、ジャズ・スタンダード曲の採用は一切無し。全て「M-BASE派の音」を基調としたオリジナル曲で占められているが、意外とこのオリジナル曲の出来がまずまず良いので、この盤、意外と聴き応えがある。
1990年度のスイングジャーナルジャズ・ディスク大賞の「金賞」に、4枚目のリーダー作『While the Gate Is Open』が選ばれたりして、当時、我が国のジャズ・シーンでは、一瞬、時代の寵児として扱われたが、今や完全に「あの人は今」的ジャズマン状態になってしまったようだ。ゲイリー・トーマスのリーダー作を何枚か聴く限り、「M-BASE派の音」って、意外とユニークで僕は好きだったんですが...。残念なことではあります。
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