桑原あいのソロ・ピアノの快作
ジャズのジャンルで「ソロ演奏」というものがある。ジャズの場合、リズム&ビートの存在が重要なので、ピアノ、ギター、ドラム、ベース等、リズム&ビートを表現出来て、かつ旋律が奏でられる楽器の「ソロ演奏」が多い。逆に、フロントを張る管楽器、トラペットやサックス、フルートなどは「ソロ演奏」はほとんど無い。
以前からソロ・ピアノ盤はあるにはあったが、腕に覚えのあるピアニストが単発でリリースするに留まっていた。が、1970年代、キース・ジャレットによって、新しいイメージのジャズにおける「ソロ・ピアノ」盤が開拓された。欧州的なクラシック音楽の雰囲気を濃く宿しつつ、ジャジーなビートとフリーキーな展開を織り交ぜて、完全即興演奏をベースとした、ジャズにおける「ソロ・ピアノ」の形を確立した。
ただし、完全即興演奏をベースとした場合、聴く方にとっては何が演奏されているのかが全く判らなくなる危険性がある。よって、最近のソロ・ピアノは、事前に用意されたモチーフや、スタンダード曲などの既存の楽曲をベースに、即興演奏をメインとして展開するものがほとんどである。完全即興演奏をベースとするソロ・ピアノはキース・ジャレットのみなのかもしれない。
桑原あい『Opera』(写真左)。2021年4月のリリース。桑原あい の初となるソロ・ピアノ盤である。ジャズに留まらない、クロスオーバーなジャンルからの名曲のカヴァーをメインに構成されている。うち5曲は著名人に選曲を依頼。シシド・カフカ、社長(SOIL&”PIMP”SESSIONS)、立川志の輔、平野啓一郎、山崎育三郎が「桑原あいに弾いてほしい」という曲をそれぞれセレクトしている。
ボン・ジョヴィから、GReeeeN、モンキーズ、そして、クインシー・ジョーンズ、アストル・ピアソラ、エグベルト・ジスモンチ、ビル・エヴァンスまで、ロックからJポップ、R&B、ジャズと幅広い音楽ジャンルからの選曲が楽しい。この盤の選曲の全貌は以下の通り。
1.ニュー・シネマ・パラダイス (エンニオ・モリコーネ)
2.リヴィン・オン・ア・プレイヤー (ボン・ジョヴィ) シシド・カフカ 選曲
3.レオノーラの愛のテーマ (アストル・ピアソラ)
4.ロロ (エグベルト・ジスモンチ)
5.ワルツ・フォー・デビイ (ビル・エヴァンス) 立川志の輔 選曲
6.星影のエール (GReeeeN) 山崎育三郎 選曲
7.ゴーイング・トゥ・ア・タウン (ルーファス・ウェインライト)
8.ミスハップス・ハプニング (クアンティック) 社長(SOIL&”PIMP”SESSIONS) 選曲
9.エヴリシング・マスト・チェンジ (クインシー・ジョーンズ) 平野啓一郎 選曲
10.ザ・バック (桑原あい)
11.デイドリーム・ビリーヴァー (ザ・モンキーズ)
桑原のソロ・ピアノは、タッチがハッキリしていてダイナミック。幅広にピアノを弾き回していて、強弱とメリハリが明確で歯切れが良い。一聴した雰囲気は「欧州&クラシック」。オフ・ピートが薄い分、クラシックな弾き回しと和音の響かせ方、そして、深いエコーが「欧州&クラシック」を彷彿とさせる。オフ・ビートを効かせたジャジーでアーシーな弾き回しを期待すると肩すかしを食らう。
日本人ジャズ・ピアニストらしいソロ・ピアノである。変にフリーに走ったり、アブストラクトに傾倒したりしないところが良い。ジャズの基本である「即興演奏」の部分をしっかり表現して、ファンクネス希薄な、端正で歯切れの良い、しっかりと弾き込んだソロ・ピアノは傾聴に値する。このソロ・ピアノ、今までに無い音の展開なので、とても聴き応えがある。
濃厚なジャズっぽさは無いが、これも「ジャズ」。桑原あいのピアノの個性が明快に理解出来る快作である。
《ヴァーチャル音楽喫茶『松和』別館》の更新状況》
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