ECMレーベルの音作りの巧みさ
欧州ジャズの歴史は古いが、地域的にはコペンハーゲンを中心とする北欧ジャズと欧州に移り住んだ米国ジャズメン達のジャズが大半だったという思い出が強い。しかし、この10年間のうちに欧州ジャズの出身地が急速に拡がってきている。
やはりネットの時代の恩恵であろう、まず第一陣として、イタリア、英国、ドイツのジャズが我が国にやってきて、最近ではイスラエル、そしてポーランドのジャズを聴くことが出来る様になった。
Marcin Wasilewski『Arctic Riff』(写真左)。2019年8月の録音。ECMの2678番。ちなみにパーソネルは、Marcin Wasilewski (p), Slawomir Kurkiewicz (b), Michal Miskiewicz (ds), Joe Lovano (ts)。マルチン・ボシレフスキのピアノ・トリオに、ジョー・ロバーノのテナー・サックスがフロント楽器として参加した、テナー1管のワン・ホーン・カルテット。
マルチン・ボシレフスキ(Marcin Wasilewski)は、ポーランド出身のピアニスト。ポーランド・ジャズ界を代表するピアニストである。この盤でのピアノ・トリオは、ポーランド出身のジャズマンで固められた、純ポーランドなピアノ・トリオになる。
トリオ演奏の基本は欧州ジャズらしい流麗なメロディ、透明感溢れるサウンド。意外と質実剛健なところが見え隠れする、ロマンチックではあるが、耽美的に流れない、意外と「硬派」なピアノ・トリオ演奏。硬派で質実剛健なところを加味した音が、ポーランド・ジャズの個性だろうと感じている。
そんな純ポーランドなピアノ・トリオをバックに、1951年、米国オハイオ州クリーヴランド出身のバリバリ米国出身の大ベテラン、ジョー・ロバーノのテナー・サックスが加わる。
ロバーノのサックスは、風貌に似合わず「ニュー・ジャズ」な、ストイックで耽美的で切れ味良いサックス。故に意外と我が国では人気が無い。風貌からすれば、こってこてハードバップな豪快なテナーかな、と思うんですが、これが違う。このロバーノのサックスの本質を見抜いて、ECMの総帥、マンフレート・アイヒャーが、ECMのセッションに抜擢している。
この『Arctic Riff』は、ポーランド・ジャズと米国ジャズの邂逅的セッションの記録ではあるが、音全体のトーンは、明らかに「ECMジャズ」。ポーランド・ジャズとロバーノの「ニュー・ジャズ」的資質を活かしつつ、全体のトーンは「ECM」。
ただ欧州的で耽美的なワンホーン・カルテットに留まらず、テクニックに優れたフリーな演奏も混ざっていて、な硬軟取り混ぜた、聴きごたえのある「ニュー・ジャズ」な雰囲気の盤に仕上がっている。さすが、ECMの総帥、マンフレート・アイヒャーのプロデュース。彼の「美意識」がしっかりと貫かれている様に感じる。
ポーランド・ジャズの特質とロバーノの「ニュー・ジャズ」的資質を殺すこと無く、ECMとしての「音の主義」の中にとりまとめる。ECMレーベルの音作りの巧みさを強く感じさせてくれる好盤です。
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