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2020年7月30日 (木曜日)

ジャマル、ソロ・ピアノで大変身

アーマッド・ジャマル(Ahmad Jamal)は「年代によって異なる顔を持つ」ジャズ・ピアニスト。大きく括って、1950〜1960年代までの作品は「しっとりシンプルでオシャレなサウンド」、1960年代終わり〜1970年代以降の作品は、うってかわって「アーシーで豪快なメリハリのあるサウンド」が中心。

マイルスが着目した『But Not For Me』の「しっとりシンプルでオシャレなサウンド」も悪くは無い。間を活かし、音数を厳選した限りなくシンプルな奏法は魅力的ではある。しかし、1960年代晩期から1970年代、インパルス・レーベルに吹き込まれた以降の作品は、それまでの「しっとりシンプルでオシャレなサウンド」とはうってかわって豪快な激しいサウンドを求めるようになり、「アーシーで豪快なメリハリのあるサウンド」へと変貌。

基本的には、1980年代以降についても、豪快でメリハリのある力強いタッチ、右手の早弾きテクニックは変わらない。左手の叩き付けるようなガーン、ゴーンという骨太な音は穏やかになっている。その分、ピアノを鳴らしまくるような、スケールの大きい弾きっぷりが目立つようになる。

そんな「弾き方」の変遷を経たレジェンド級のジャズ・ピアニストである「アーマッド・ジャマル」。1951年の初レコーディング以来、70年に近いキャリアを重ねて来て以来、初の「ソロ・ピアノ」の盤をリリースした(2016年の録音)。1930年生まれだから、なんと86歳でのソロ・ピアノ盤である。
 
 
Ballads-ahmad-jamal  
 
 
Ahmad Jamal『Ballades』(写真左)。2019年9月のリリース。録音は2016年。ジャマルのソロ・ピアノ盤である。21世紀のジャマルのピアノは相変わらず「豪快でメリハリのある力強いタッチ、右手の早弾きテクニック」。しかし、このソロ盤では、クラシック・ピアノのマナーも見え隠れする、流麗でエレガント、気品を感じさせる、ファンクネスが希薄なピアノ・ソロの弾きっぷりになっている。このソロ・ピアノを聴いただけでは、ジャマルのピアノとは判らない。

しかし、これだけ「グループの中での弾きっぷり」と「ソロ・ピアノでの弾きっぷり」が違うピアニストの珍しい。冒頭の「Marseille(マルセイユ)」は、ジャマルの代表曲の1つだが、これを弾くピアニストがジャマルだとは全く判らない。同じく、ジャマルの代表曲のひとつ「Poinciana」も同様。

1950年代からのプレイ・スタイルの変遷も併せ持って考えると、ジャマルは適用範囲の広いピアニストだということが言える。演奏フォーマットや時代の要求に応じて、自らの「弾きっぷり」をコントロールすることが出来るピアニストなのだ。

この盤におけるピアノ・ソロだけ捉えれば、流麗でエレガント、気品を感じさせる、ファンクネスが希薄なピアノ・ソロは素晴らしい。スピリチュアルな側面も新鮮で、なかなかに充実した内容のソロ・ピアノ盤である。しかし、ジャマルが、こんなに流麗でエレガントなピアノを弾きこなせるとは思わなかった。面食らったり、戸惑ったりの「心の整理と新たな納得」が必要な、意外と厄介な新盤ではある。
 
 
 

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