西海岸ジャズの「ビ・バップ」
米国西海岸ジャズの好盤の聴き直しを進めている。もともと、我が国では米国西海岸ジャズはマイナーな存在で、1980年代までは、ほぼ忘れ去られた状態になっていた。ほんの少しだけ、米国西海岸ジャズの超有名盤がジャズ盤紹介本に載るだけ。アート・ペッパー、シェリー・マン、ジェリー・マリガンくらいが、僕たち、ジャズ者初心者が知っていた米国西海岸ジャズのジャズマンの名前である。
『The Gerald Wiggins Trio』(写真左)。1956年10月、Holly Woodでの録音。ちなみにパーソネルは、Gerald Wiggins (p), Joe Comfort (b), Bill Douglas (ds)。米国西海岸ジャズの人気ピアニスト、ジェラルド・ウィギンスがリーダーのピアノ・トリオ編成。日本では全く名が知られていないジェラルド・ウィギンス。僕はこの盤で、ウィギンスを知った。
このトリオ盤でのウィギンスのピアノは、米国西海岸ジャズの個性の本流からは外れている。米国西海岸ジャズの個性は「ほど良くアレンジされた、お洒落で粋、メロディアスで聴き心地の良いジャズ」。しかし、この盤の演奏は「ビ・バップ」。超絶技巧なテクニックで高速フレーズを繰り出す、東海岸でのモダン・ジャズの発祥と言われる「ビ・バップ」。それがここにある。
ビ・バップといっても、1940年代後半から1950年代初頭の東海岸でのビ・バップとはちょっと雰囲気が異なる。東海岸のビ・バップは、超絶技巧なテクニックを全面に押しだした、そのテクニックの粋を尽くした「力業」の競い合い。フレーズの流れより、閃きによるフレーズのユニークさが優先。しかし、このウィギンスの、この米国西海岸のビ・バップは少し趣きが異なる。
東海岸のビ・バップとの大きな違いは「整っている」こと。閃きによるフレーズのユニークさよりも流れる様な、滑らかで、テクニックだけに耳を傾ける事が出来る、そんな「練られた」アドリブ・フレーズ。閃きによる「バラツキ」とは全く無縁の、即興ではあるが、恐らく事前にしっかりイメージされたアドリブ・フレーズ。そして、再び聴きたくなるような、小粋で印象的なフレーズの数々。よく考えられた、鑑賞に耐えうる「印象に残る」フレーズ。
録音年は1956年。演奏としては「ハードバップ」を選択しそうなものだが、ここでウィギンスは敢えて「ビ・バップ」を選択している。この盤を聴いて判るのは、西海岸ジャズだって、東海岸と比べて遜色の無いビ・バップは出来るんだ、ということ。そういう面からも、東海岸と西海岸はその実力において拮抗していたことが判る。日本の東海岸ジャズ偏重の傾向に「もの申す」、痛快なビ・バップ風のピアノ・トリオ盤である。
東日本大震災から8年8ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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