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2019年3月25日 (月曜日)

エヴァンスのソロ『Alone (Again)』

今や、ジャズの世界でソロ・ピアノと言えば「キース・ジャレット」。ソロ・ピアノは簡単そうに見えて、意外に厄介なフォーマットだ。即興演奏が基本なので、イマージネーションの豊かさと長時間の演奏に耐えうる体力とテクニックが十分なほど必要になる。確かに、ジャズ・ピアニストの中で、ソロ・ピアノに手を染め、ソロ・ピアノを弾き続ける者は少ない。
 
そう言えば、ビル・エヴァンスもソロ・ピアノの名手だった。というか、ソロ・ピアノというフォーマットが、ジャズとして成立することを教えてくれたのが彼だったと思う。世間的には、ソロ・ピアノのスタンダードは「キース・ジャレット」なんだが、僕は今でも「純ジャズのソロ・ピアノ」のスタンダードは、ビル・エヴァンスではないか、と思うのだ。
 
キースは、クラシックや米国ルーツなどの様々な音楽の要素を取り込みながら、ジャズの要素を即興演奏という形態の中で、前面に押し出すことが多い、という印象のソロ・ピアノ。基本的に完全即興を前提としたオリジナルな演奏、というか再現性は希薄な「一期一会な演奏」が基本。旧来のジャズのスタイルに囚われない、限りない創造性と長時間に渡る、ダイナミックな即興演奏の展開と構築力が魅力である。
 
エヴァンスのソロ・ピアノの根幹にあるのは、あくまで「旧来の純ジャズ」である。エヴァンス流のソロ・ピアノでは、とりわけ、スタンダード曲が映える。キースのソロ・ピアノとは全く正反対にあるエヴァンスのソロ・ピアノ。どちらも甲乙付けがたい。
 

Alone-again

 
Bill Evans『Alone (Again)』(写真左)。1975年12月16日-18日での録音。ビル・エヴァンスのソロ・ピアノ集。正式盤としては、この前にVerveレーベルから『Alone』というソロ・ピアノ盤を出している。その続編という意味で、タイトルに「 (Again)」が付いている。収録された曲は全てスタンダード曲で占められている。キースの様に、インスピレーション溢れる、完全即興のオリジナル演奏では全く無い。
 
このソロ・ピアノの演奏は、オーソドックスなジャズという音楽ジャンルの基本をしっかりと踏まえた「ジャズ一色のソロ・ピアノの演奏」と言える。ピアノという楽器は「旋律楽器」としての側面と「リズム楽器」としての側面を併せ持ち、一人ジャズバンド、一人ジャズ・オーケストラが演奏出来る変わった楽器である。
 
その変わった楽器の特性を最大限活かして、ジャズとしてのソロ・ピアノを展開しているところが見事。エヴァンスのソロ・ピアノは、ジャズとしてのリズム&ビートを左手中心に叩き出し、その中でベース・ラインもしっかりと押し出す。右手中心に旋律をしっかりと響かせて、その延長線上にアドリブ展開としての即興演奏を展開。
 
キースのソロ・ピアノは「キースの唯一無二」なもの。エヴァンスのソロ・ピアノの根幹は「旧来のジャズ」であり、再現性もある。面白いのは、今の耳で聴いていると、エヴァンスのソロ・ピアノには普遍性があるのではないか、と感じること。エヴァンスが亡くなって、既に38年。エヴァンスのソロ・ピアノは「ジャズの歴史」の一部になっているように感じた。



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