アレンジ能力を加えて総合力勝負
Christian Sands(クリスチャン・サンズ)。1989年5月の生まれ、というから今年30歳、若き中堅である。デビューは弱冠12歳。2007年2月にはグラミー賞受賞式でも演奏したという早熟の天才。米国の若きピアニストの注目株であったが、そんなサンズも今年で30歳。個性もしっかり確立し、ジャズ・ピアニストの中堅として、しっかりとそのポジションを確保している。
そんなサンズの最新作。Christian Sands『Facing Dragons』(写真左)。2018年9月のリリース。ちなみにパーソネルは、Christian Sands (p), Yasushi Nakamura (b), Jerome Jennings (ds) のトリオをベースに、Caio Afiune (g), Keyon Harrold (tp), Marcus Strickland (sax), Roberto Quintero, Cristian Rivera (perc) がゲストで参加している。
この新盤は、サンズのピアニストとしての面よりは、サンズのアレンジ能力や演奏全体のプロデュース能力にスポットを当てている様である。ネオ・ハードバップをベースとした、底にそこはかとなくファンクネスを漂わせた、モーダルでスムースなメインストリーム・ジャズにしっかりとまとめているところにサンズの非凡さを感じる。
ピアニストとしてのサンズについては申し分無い。サンズの音の「間」と「響き」を活かした、音に「ため」と「余裕」のあるピアノ。音の響き(ユニゾン&ハーモニー)に仄かにゴスペル調な雰囲気が漂うところがサンズのピアノの個性である。そのゴスペル調の雰囲気が色濃く出ている演奏が、3曲目「Yesterday」で良く判る。「Yesterday」はレノン=マッカートニーの名曲で、ビートルズの楽曲として完成されている。
これをジャズでカヴァーしている。レノン=マッカートニーの楽曲はその個性が強すぎるので、なかなかジャズにならない。サンドはこのジャズ化の難曲「Yesterday」をゴスペル調を添加した、ファンクネスが希薄な4ビート曲にすることで「ジャズ化」に成功している。見事なアレンジ能力である。サンズはこの盤で、ピアノの他に、Fender Rhodes や Hammond B3 にも手を染めて、それぞれの楽器でも良い成果を残している。
5曲目の「Sunday Morning」では、ハモンドとローズ、ピアノを一曲の中で使い分け、敬虔な祈りの雰囲気を醸し出している。しかも、そこに「レゲエ・ビート」が絡んで、そのユニークさは今後の楽しみになっている。アレンジ能力を含めた総合力で勝負できるピアニストに成長したクリスチャン・サンズ。もう今の段階で次作が楽しみである。
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