「サラッとした耽美的な」響き
David Hazeltine(デビッド・ヘイゼルタイン)。米国ミルウォーキー出身のジャズ・ピアニスト。1958年10月生まれなので、現在60歳の還暦。大ベテランの域である。同じ世代なので親近感もある。彼と出会ったのは、ヴィーナス・レーベル盤『Alice in Wonderland』であった。バップからモードまで、幅広いスタイルに精通し、その多様性溢れるフレーズが個性。確かなタッチの響きは「硬派で耽美的」。
そんなヘイゼルタインの最新作になる。David Hazeltine『The Time is Now』(写真左)。2018年5月23日の録音 。ちなみにパーソネルは、David Hazeltine (p), Ron Carter (b), Al Foster (ds)。レジェンド級をベースとドラムに持って来て、期待以上の化学反応が起こるか、平凡な水準レベルで終わるか、真ん中の無い、思い切ったメンバーの選定である。聴き前から期待感が膨らむ。
聴いてみると、冒頭の自作のタイトル曲「The Time is Now」で既によく判るが、サラッとしたシンプルで耽美的なアレンジがこの盤の特徴。ナルシストを彷彿とさせる様な「ディープな耽美的」な表現では無く、ビ・バップに通じる様な、硬派で堅実でサラッとした耽美的な響き。テンポはミッドテンポが多くて、ゆったり落ち着いて聴くことが出来る。ファンクネスは希薄だが、タッチはハッキリとしていて躍動感がある。
ヴィーナス・レコード時代の「ディープな耽美的な」響きではなく、「サラッとした耽美的な」響きがこのトリオ演奏の身上。アレンジもサラッとしているが、聴き応え十分に感じるのは、ヘイゼルタインのピアノのタッチが明快で、硬派で堅実で耽美的なフレーズがクッキリと浮き出てくるからだろう。3曲目の「Smoke Gets in Your Eyes」や9曲目の「In a Sentimental Mood」の様な、超有名なスタンダード曲を聴くと良く判る。
ロン・カーターのベースが良い。以前の様に前へ前へ出なくなって、楽器のピッチが合うようになって、落ち着いた良い感じになってきていたのは知っていたが、それにも増して、この盤でのロンのベースは実に雰囲気がある。ガッチリ構えて、堅実かつ自由度の高いベースでフロントを鼓舞する。アルのドラミングは相変わらず味が合って立派。伴奏上手なドラミングの好例だろう。バッキングとして実に「粋」なドラミングである。
良いピアノ・トリオ盤だと思います。途中、どっかで聴いた曲やなあ、と思っていたら、James Taylorの「Don’t Let Me Be Lonely Tonight」でした。ピアノ・ソロでカヴァっていて素敵です。現代の洗練されたネオ・ハードバップなピアノ・トリオ。そんな演奏を平均年連60歳以上のトリオが演る。ならではの円熟味と洗練さが心地良くて「粋」。ピアノ・トリオ者の皆さんにお勧めの一枚です。
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