ハッチャーソンのニュージャズ
ジャズ・ヴァイブの人材は少ない。ジャズの歴史全体で見渡すと、やはりナンバーワンな存在は「ミルト・ジャクソン」に落ち着くだろう。ハードバップをメインのスタイルにした、ファンキーでソウルフルなヴァイブはオールラウンダー。いつでもどこでも、高度なテクニックを含め、最高のジャズ・ヴァイブを聴かせてくれる。
それではその次を継ぐ者はだれか。1960年代後半から1970年代に頭角を現したこの二人に絞られる。ゲイリー・バートンとボビー・ハッチャーソンである。バートンは4本マレット奏法という新しい技を編み出し、音的には「ニュー・ジャズ」の範疇。ハッチャーソンは伝統的な奏法ではあるが、ジャジーでファンキーな「ニュー・ジャズ」な聴かせてくれる希有な存在。
バートンは1970年代前半にいち早く「ニュー・ジャズ」の総本山であるECMレーベルに移籍し、次々と秀作をリリースした。一方、ハッチャーソンと言えば、米米リバティー社傘下のブルーノート・レーベルに留まり、バートンと同様、次々と秀作をリリースした。が、気の毒ではあるが、なぜかハッチャーソンが大きく割を食っている。
Bobby Hutcherson『Total Eclipse』(写真左)。1968年7月12日の録音。ブルーノートの4291番。ちなみにパーソネルは、 Bobby Hutcherson (vib, marimba), Harold Land (sax), Chick Corea (p), Joe Chambers (ds), Reggie Johnson (b)。まず、パーソネルを見渡すと、当時、ニュー・ジャズの筆頭を張った一人、チック・コリアの参加が目を引く。他のメンバーは、ハードバックど真ん中の時代から活躍する「曲者」ジャズメン揃い。
また、選曲を見渡すと、全5曲中4曲がハッチャーソンの作。そして、残りの1曲「Matrix」はチックの名曲。5曲ともモードを駆使した自由度の高い、ネオ・ハードバップな演奏であり、スタンダード曲の採用が全くないのがこの番の特徴でもある。確かに聴いてみると、モード奏法全開で、ハッチャーソンのヴァイブとランドのサックスが疾走する。チックのピアノはツボを押さえた好バッキングでフロントの二人を支える。
この盤、当時、最先端の、かなり尖ったモードジャズを展開している「ニュー・ジャズ」な盤である。しかし、ジャケットを見るとお判りかと思うが、このハッチャーソンの顔を前面に押し出したジャケットで「損」をしている、残念な好盤である。内容が硬派で尖ったモードジャズを展開しているにも拘わらず、このジャケット・デザインは無いよなあ、と溜息が出る。でも、中身は一級品なので、是非とも一度は聴いて貰いたい「ニュー・ジャズ」な好盤です。
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