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2018年10月 5日 (金曜日)

闘病後、キースは変わった 『Whisper Not』

キース・ジャレットの「スタンダーズ」のアルバムの聴き直しを再開した。1996年、キースは慢性疲労症候群と診断され、同年の秋以降の活動予定を全てキャンセルして自宅での療養を余儀なくされる。2年の闘病の後、1998年に復活。今、聴き直しはまさにその時期。当時の復活の「スタンダーズ」第一作目を聴いている。

Keith Jarrett『Whisper Not』(写真左)。1999年7月5日、パリでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。お馴染みの「スタンダーズ」トリオである。ライブ録音なのも従来通り。ボリュームのある内容でCD2枚組。ここまでくれば、もはやCD1枚には収まりきれないのだろう。

病気療養後のキースのピアノは明らかに変わった、と感じている。アドリブ展開については、変にこねくり回さずにシンプルで判り易い展開に変わっている。スタンダード曲の解釈については、変にアレンジせずに、スタンダード曲の持つ個性をストレートに押し出している。そして、大きな声で唸らなくなっている。これは良い。3者3様の演奏に耳を集中させることが出来る。
 

Whisper_not_keith_jarrett

 
スタンダード曲の解釈もシンプルなものになった。シンプルであるがエネルギッシュな展開は病気療養後ならではのものがある。アドリブ展開はシンプルそのもの。面白いことに、これだけストレードでシンプルになればなるほど、スタンダード曲の良さがポッカリと浮かび上がってくる。端正で高テクニックで、タッチは少し聴くだけでキースと判る位に個性的。フレーズは決して捻らない。シンプルにそっとそのままにフレーズは展開される。

ジャック・デジョネットのドラミングの見事。ポリリズミックでダイナミックなデジョネットのドラムは「即興演奏」的雰囲気が満載。この盤では様々な工夫、テクニックを駆使していて、ジャズのドラミングの幅と表現力が明らかにアップしている。ピーコックのベースは安定感抜群。それでもこの頃から印象的なソロを繰り出す様になっている。このドラムとベースの音のレベルは途方もなく高い。これが「スタンダーズ」である。

慢性疲労症候群との闘病の後、明らかにキースのピアノは変わった。長い展開での「ビ・バップ」とでも形容したら良いだろうか、シンプルで判り易い、即興演奏として一期一会な展開が見事。しかし、キースが「Whisper Not」や「'Round Midnight」などの思い切り大衆的な「どスタンダード曲」をチョイスするなんて思ってもみなかった。そういう点でも、闘病後、キースは変わったのである。
 
 
 
★東日本大震災から7年6ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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コメント

確かに闘病後のキースの演奏は変わったけれど、何か憑き物が落ちたように
天才的な閃きやテクニックが影を潜めてしまったように思います。
ちょうど、バド・パウエルがロボトミー手術を受けてからのように・・
バドのベストはルースト盤だと思いますが、キースのトリオでのベストは
1986の「Still Live」で決まりではないかと。
My Funny Valentine~Autumn Leavesはジャズの繊細さと美しさの極致ではないか
と思っています。

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