「ネオ・スピリチュアル」の先駆
ベーシストがリーダーのアルバムを聴くのが好きだ。ベーシストがリーダーのアルバムは面白い。ベーシストがリーダーのアルバムには2つの傾向がある。ひとつはベースの演奏自体が非常に特徴的な場合で、その特徴的な演奏内容を全面に押し出したスタイル。もうひとつは、ベーシストが卓越した作曲能力、編曲能力を有する場合で、この作曲能力、編曲能力にスポットを当てて、リーダー・アルバムを演出するケースである。
ベーシストがリーダー作で面白いのは後者で、この後者の代表的ベーシストが「チャールズ・ミンガス(Charles Mingus)」。ジャズ・ベーシストの伝説のレジェンドであり、卓越したコンポーザー・バンドリーダーである。この「コンポーザー・バンドリーダー」の部分がミンガスの場合、突出していて、聴きどころのあるリーダー作を多くリリースしている。どれもが独創的で全くマンネリが感じられない。非常に優れた成果ばかりである。
『Mingus Mingus Mingus Mingus Mingus』(写真左)。1963年1月&9月の録音。最近、久し振りに聴き直したミンガスのリーダー作である。ビッグバンド構成&アレンジの楽曲がメインで、心ゆくまで、ミンガス・ミュージックを堪能することが出来る。ミンガスの音楽は重心が低く、4ビートが基調であるが、フリー一歩手前で留まりながらも自由度は限りなく高い。フレーズの展開も多彩で、バリエーション豊か。マンネリズムなど無縁である。
収録曲を見渡すと「当時の新曲ばかりやなあ」と思うが、演奏を聴くと「あれっ」と思う。この盤、実はタイトル違いの再演の曲が多く収録されている。アレンジの焼き直し、アドリブ展開の洗い替えがメインなので、オリジナルの演奏に比べて、確実にバージョンアップされており、それが理由でこの盤、聴いていてかなりの充実度を感じる。
例えば、 冒頭の「II B.S.」は『The Clown』収録の「Haitian Fight Song」。5曲目の「Better Get Hit in Yo' Soul」は『Mingus Ah Um』収録の「Better Git It In Your Soul」。6曲目の「Theme for Lester Young」は同じく『Mingus Ah Um』収録の「Goodbye Pork Pie Hat」。7曲目の「Hora Decubitus」が『Blues & Roots』収録の「E's Flat Ah's Flat Too」。いずれもアレンジ、演奏内容共に、オリジナルの演奏を凌駕している。聴き応え満点である。
今の耳で聴くと、ラップの様なボイスの活用あり、ゴスペルを応用したファンクネス溢れるユニゾン&ハーモニーあり、最近流行の「ネオ・スピリチュアル」なジャズの雰囲気が漂っている。この盤の録音は1963年。今を去ること約55年前に、キャッチャーで構築美溢れる「ネオ・スピリチュアル」なジャズの先駆的な音が残されていたとは。ミンガスの先進性に改めて敬意を表した次第。好盤です。
★東日本大震災から7年4ヶ月。忘れてはならない。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
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