総合力勝負のチェスナット
長年、耳を傾けてきて、ジャズ・ピアニストには、その個性的なスタイルや奏法を「ウリ」にするピアニストと、演奏全体の総合力を「ウリ」にするピアニストの2種類に分かれると感じている。前者は、聴けば「あ〜あの人や」と判る位の強烈な個性で、例えば、バド・パウエルやビル・エヴァンス、マッコイ・タイナーなど、1950年代のレジェンド級のピアニストは皆、強烈な個性の持ち主である。
後者は古くはハードバップ後期、1960年代前半からポツポツ出始めて、最近ではこの手のピアニストが結構いる。一聴すれば直ぐ判る様な強烈な個性が無い分、ピアニスト個人の判別は難しい。しかし、テクニック、歌心、バッキングなど、ピアニストの総合力で勝負するタイプなので、安心してその演奏に身を委ねることができ、ながら聴きにも最適である。
『Cyrus Chestnut』(写真左)。名前ズバリのタイトルなので、初リーダー作かと思いきや、1998年リリースの自身9枚目のリーダー作である。ちなみにパーソネルは、Cyrus Chestnut (p), Ron Carter (b), Billy Higgins (ds), James Carter (as), Joe Lovano (ts), Anita Baker (vo)。サイラス・チェスナットのトリオに、アルトのジェームス・カーターとテナーのジョー・ロバーノ、そして、ボーカルのアニタ・ベーカーそれぞれが客演した内容。
チェスナット=カーター=ヒギンスのトリオ演奏を始めとして、カーターのアルト、またはロバーノのテナーをフロントに据えたカルテット演奏、チェスナット=カーター=ヒギンスのトリオをバックにベーカーのボーカルをフィーチャーした演奏、そして、チェスナット=カーター=ヒギンスのトリオ演奏にカーターのアルトとロバーノのテナーの2管フロントのクインテット演奏。そうそう、チェスナットのソロも2曲ほどある。
このバリエーション豊かな演奏形態ではあるが、いずれの形態でもチェスナットのピアノは安定している。テクニック申し分無く、ソロを取らせればダイナミック、歌心溢れ、オーソドックスではあるが、その溌剌とした弾きっぷりは実に魅力的。ボーカルのバッキングに回っても、その総合力的な個性は安定・堅実。
特に、バックに回った伴奏の中で、チェスナットの個性はより輝く。ソロ・ピアノを聴けば、間合いの取り方とアドリブの弾き回し方にそこはかとない個性があって、やはり一流のジャズ・ピアニストの一人だということを再認識する。ケニー・バロンやケニー・カークランド、マルグリュー・ミラーと同じ「総合力で勝負するタイプ」として、僕のお気に入りのピアニストである。
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