少しマンネリ気味のスタンダーズ 『The Cure』
キース・ジャレットのリーダー作の聴き直しを進めている。これがなかなか面白い。特に「スタンダーズ」におけるキースの音作りに関する「戦略」が垣間見えて面白い。
改めて、キース・ジャレットの「スタンダーズ」。スタンダード曲の親しみ易い旋律を借りて、その親しみ易い旋律を基に「即興」を展開する。スタンダード曲の旋律をちょっと借りているだけで、基本はキース独特の「即興」がメイン。
ファンクネス皆無、リリカルで耽美的、硬質で凛として流麗、硬軟自在なダイナミズム、それらをピアノ・トリオのインプロビゼーションという限りなく自由度の高いレベルで表現する。いわゆる「即興」を前面に押し出した展開である。
Keith Jarrett『The Cure』(写真左)。邦題『ボディ・アンド・ソウル』。1990年4月21日、ニューヨークのタウンホールでのライブ録音。ちなみにパーソネルは、もはや言わずもがなの、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」の3人である。
このライブ盤、収録された曲を見ると、思わず「うむむ」と唸る。冒頭にセロニアス・モンクの「Bemsha Swing」が収録されている。キースとは真逆とは言わないまでも、キースの個性から一番遠いところにあるであろう、セロニアス・モンクの名曲。あの独特の飛んだり跳ねたりの旋律と独特のタイム感。
キースはどうやって料理するのか、と思いきや、「Bemsha Swing」を借りて流麗にテーマを弾いて、それから、セロニアス・モンクの「飛んだり跳ねたり」の旋律の個性や「独特のタイム感」は全く引用すること無く、キースの「スタンダーズ」お得意の即興演奏が展開される。モンクの影はほとんど感じられない。
以降の曲については、ちょっと渋めのスタンダード曲を選んで演奏しているが、演奏の傾向は皆同じ。スタンダード曲の親しみ易い旋律を借りて、その親しみ易い旋律を基に「即興」を展開する。スタンダード曲の旋律をちょっと借りているだけで、基本はキース独特の「即興」がメイン。
「即興」は独特の個性であり、個性であるが故に、パターンが定型化される危険性がある。1983年にスタンダーズを旗揚げして、この『The Cure』で9枚目のアルバムになる。即興演奏という切り口からすると、さすがにちょっとマンネリな雰囲気が見え隠れしても仕方が無い。確かに、このライブ盤では、今までの「即興」におけるワクワク感がちょっと少なく感じる。
このライブ盤を聴くと、いよいよスタンダーズもマンネリの時期に差し掛かってきたのかな、と感じる。大丈夫なのか、と少し心配になる様な内容の『The Cure』。飛ぶ鳥を落とす勢いの「スタンダーズ」だったが、ここにきて、ピークを過ぎた感、手慣れた感が見え隠れする。この盤を初めて聴いた当時、初めて「スタンダーズ」に対して心配になったことを思い出した。
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