キースの体調不良の前触れ 『Bye Bye Blackbird』
キース・ジャレットの聴き直しをどんどん進める。1991年9月28日、ジャズの帝王、マイルス・デイヴィスが鬼籍に入った。当時のジャズ界に衝撃が走った。ジャズ界を長年牽引してきた、絶対的リーダーな存在の「ジャズの帝王」が消えていなくなってしまったのである。一瞬、ジャズメンの全ては途方に暮れる状態になった。
で、そこはミュージシャンである。自ら、マイルス・トリビュートのアルバムを企図し始める。マイルス・トリビュートのアルバムを世に出すことで、マイルスの逝去に対する「追悼の意」を明確に表現するのだ。著名なジャズメンはこぞって、マイルス・トリビュートのアルバムをリリースした。
キース・ジャレットとて例外では無かった。マイルス逝去後、2週間でスタジオに入る。その頃、キースのスタンダーズはライブ・レコーディングがほとんど。それがスタジオ録音に入った。演奏時のテンションの維持やアドリブ展開時のイマージネーションの閃きについて問題は出ないのか。即興演奏がメインのスタンダーズにとっては試練のレコーディングだったようだ。
Keith Jarrett『Bye Bye Blackbird』(写真左)。1991年10月12日の録音。ちなみにパーソネルは、もはや言わずもがなの、Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)。いわゆる「スタンダーズ」の3人である。
しかし、マイルス・トリビュート盤でありながら、リリースは1993年4月、マイルスが鬼籍に入ってから、1年半が経過していた。これでは「追悼盤」としては、リリースのタイミングが余りにズレている。
リリース当時、聴いてみて「なるほどなあ」と自ら納得してしまった。本作はマイルス追悼作として、マイルス風の展開を含んだ曲、マイルスゆかりの曲を選んで収録しているみたいなんだが、どうにもこうにも、マイルス風のフレーズが出てくる訳でも無く、マイルス追悼の意を確認できる様な内容の演奏がある訳でも無い。
どの演奏も躍動感に乏しく、沈鬱な雰囲気が見え隠れする。最初は、スタンダーズの3人それぞれのマイルスを亡くした悲しみがそうさせるのか、とも思ったが、どうもそうではなかったみたい。ベースのピーコック、ドラムのデジョネットはそれなりにリズム&ビートをスタンダーズ風に即興演奏な展開をしているのだが、キースがそれについていっていない。
肝心のリーダーのキースのピアノが意外と「不調」である。演奏時のテンション、アドリブ展開時のイマージネーションの閃きに明らかに問題が生じている感じなのだ。この盤のリリース当時、この盤を聴きながら、キースの身に何か異変が生じているのではないか、と不安になったことを覚えている。なるほど、マイルス追悼盤として、リリースのタイミングが遅れた訳である。
やはりスタジオ録音という環境に問題があったのではなかろうか。加えて明らかにキースは不調である。後の1996年、キースは激しい疲労感に襲われ、演奏することもままならない状態に陥いる。慢性疲労症候群と診断され、以降の活動停止。自宅療養を余儀なくされた。その前触れの様な、この盤の内容である。マイルス・トリビュート盤としてはちょっと、という感じかな。
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