根明なスピリチュアル・ジャズ
春にはスピリチュアル・ジャズが良く似合う。春のうららかな雰囲気が、フリーでアブストラクトに傾くアドリブ・フレーズを愛でる余裕を持たせてくれる。春の儚い雰囲気が、心震わせるスピリチュアルなブロウを増幅する。
そんなスピリチュアルなジャズであるが、黒人差別の問題、公民権運動やベトナム戦争が米国に影を落としていた時代である1960年代、基本的に悲しみ怒りに傾いたエモーショナルなブロウが多かった。我が国でも、1960年代は安保問題、学園紛争と国内に陰が差した時代で、この悲しみ怒りに傾いたエモーショナルなブロウが、一部ではあるが受けに受けた。
1970年代に入って、ロックの台頭によって、ジャズは大衆音楽の座から滑り落ちる。ジャズはマニア向けのマイナーな音楽になりつつあった。フリー・ジャズやスピリチュアル・ジャズは全くの下火となってしまったのである。が、どっこい、それでも細々と絶えることなく生きていたのだからジャズは意外にしぶとい。
Pharoah Sanders『Rejoice』(写真左)。女性のナレーションに導かれて始まる冒頭のタイトル曲はポシティブな雰囲気に満ち溢れている。このアルバムは1981年の作品。もはやジャズを取り巻く時代は変わったのである。このファラオ・サンダースのアルバムは、ポジティブな雰囲気が蔓延している。楽園的な雰囲気のスピリチュアル・ジャズ。
2曲目の「Highlife」などは思いっきり「カリプソ」である。ポップでファンキーな明るい「カリプソ」。思わず踊り出してしまいそう。そこに、思いっきりスピリチュアルでフリーキーなサンダースのアドリブが炸裂する。それでも、サンダースのソロは伝統の範囲をはみ出すことは無い。ギリギリのところで伝統的な枠に踏みとどまる。
3曲目の「Nigerian Juju Highlife」は思いっきり「アフリカン」。ゴスペルチックな要素も振り撒きつつ、それでも基本的に雰囲気はポジティブ。4曲目の「Origin」などは女性コーラスをフィーチャーしたもの。以前のスピリチュアル・ジャズでは考えられない、思いっきりポップで怠いポジティブな雰囲気。
6曲目のコルトレーンの「Moments Notice」のボーカル付きバージョンなど、全く以て脳天気極まりない(笑)。怠くてファンキーでスピリチュアル。スピリチュアル・ジャズが精神性を追求したシリアスなものである時代は去った。このサンダースのスピリチュアル・ジャズ、シリアスなジャズ者の方々からは思いっきり怒られそう(笑)。でも、これが実に良い雰囲気なのだ。
根明なスピリチュアル・ジャズ。ちょっと地味なジャケット・デザインで損をしているが、内容的には折り紙付きのスピリチュアル・ジャズ盤です。フリーキーでアブストラクトなブロウも伝統の枠を逸脱することは無い、意外と伝統的な純ジャズの枠の中に収まったところが聴き易い好盤です。
震災から6年。決して忘れない。まだ6年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっとずっと復興に協力し続ける。
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