ジャズ喫茶で流したい・104 『Mucho Calor』
ジャズで「サックス」と言えば、テナー・サックスばかりでは無い。アルト・サックスにも優れたジャズメンが沢山いる。アルト・サックスは、テナー・サックスに比べると小ぶり。その分、担当する音階はテナーより高い。アルト・サックスはサックスの中で最も標準的な楽器とされる。
ジャズの世界で、そんなアルト・サックスの使い手と問われて、僕の頭の中に「いの一番」に浮かぶジャズメンは「アート・ペッパー(Art Pepper)」である。僕はジャズを聴き始めた、今を去ること40年前から、ずっと「アート・ペッパー」の大ファンである。とにかく、ペッパーのアルト・サックスは「テクニックに優れる」。
そして、音色がブリリアントで健康的な官能美がたまらない。加えて、鼻歌を歌うが如く、止めどなく出てくる、歌心溢れるアドリブ・フレーズ。豊かなイマージネーション、そして、誠実な吹きっぷり。どれを取っても「良い」。そんなペッパーのアルトが大好きだ。しかも、ペッパーのリーダー作には駄作が無い。どのリーダー作でもペッパーのアルトは「良く鳴っている」。
Art Pepper『Mucho Calor』(写真左)。タイトルはスペイン語で付けられているので、『ムーチョ・カロール(Mucho Calor)』と読んで欲しい。日本語表記ではなぜか『ムーチョ・カラー』という読み方が定着しているがこれは間違い。英語に訳すと「Much Heat」が一番近しく「とっても熱い」という意。
加えて、ラテン風アレンジもののアルバムであることを売りにしている盤である。ジャケ裏に「a presentation in latin jazz」と明記されている。ちなみにパーソネルは、Conte Candoli (tp), Jack Costanza (bongos), Chuck Flores (ds), Russ Freeman (p), Mike Pacheko (bongos), Art Pepper (as), Bill Perkins (ts), Ben Tucker (b)。オクテット構成。1958年4月の録音。
冒頭のタイトル曲「Mucho Calor」から、ボンゴ、コンガの音が全開。掛け声なんかもかかったりして、この盤って、1960年代からつい最近まで、恐らく日本では「キワモノ扱い」の盤だったのではなかろうか、と思ってしまう。日本ではパーカッションの音色について評価が低い。併せて、ラテン・ジャズについても「俗っぽい」という一言で片付けられることが「ほとんど」。
しかし、2曲目以降、聴き進むにつけ、その評価の低さは「不遜」であると確信する。もともと米国西海岸ジャズだって、東海岸ジャズ偏重の日本ジャズ界のなかでは評価が低かった。そう、この盤は、アート・ペッパーをリーダーとして、米国西海岸ジャズの雄を集めて構成された八重奏団なのだ。
アルバム全体を聴き通して、洒落たアレンジが施された、スムースでちょっとライトな感覚のお洒落なジャズ感満載で、このアルバムって、明かな「米国西海岸ジャズ」の音世界である。そこに、ブリリアントで健康的な官能美豊かなペッパーのアルトが滑る様に、アドリブをぶっ込んでくる。ジャズである。この盤を「キワモノ」として避けてはならない。今では「ジャズ者御用達の好盤」の一枚である。
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