音楽喫茶『松和』の昼下がり・50
全く無名のテナー奏者だって、凄いプレイを聴かせてくれることがある。ジャズ・テナーって、なにもコルトレーンやロリンズやゲッツだけでは無い。たまに、コアなジャズ盤紹介本を眺めていて、これは、という盤に巡り会う。聞いたこと無い名前だなあ、と思うんだが、これが聴いてみると凄い、ってことがたまにある。
Bruce Eskovitz『One for Newk』(写真左)。テナー奏者ブルース・エスコービッツの好盤。1995年のリリース。ちなみにパーソネルは、Bruce Eskovitz (ts), Lawrence Marable (ds), Ray Drummond (b), Bill Mays (p), Charlie Shoemake (vib)。ヴァイブ入りのクインテット。
タイトルと収録曲の曲目を見ると、この盤は「ソニー・ロリンズ・トリビュート」であることが判る。タイトルの「Newk(ニュークス)」は、1950年代後半、ソニー・ロリンズのニックネーム。ロリンズは顔がニューカムに似ていることから「ニュークス」と呼ばれていた。ニューカムとは、メジャーリーガーのドン・ニューカムのことで、愛称が「ニュークス」なのだ。
とは言え、じゃあ、このエスコービッツのテナーは、ロリンズの様な豪放磊落、大らかでスケールの大きいテナーを吹くのか、と言えばそうではない。ボボボボという低音を響かせて吹き上げる、ちょっとオールド・スタイルの入った、それでいて、テクニカルで疾走感のあるテナー。オールド・スタイルと新しいスタイルが混ざりあった「オールド・スタイルのコルトレーン」の様な雰囲気。
こんなエスコービッツのテナーが、ロリンズゆかりの佳曲を、バリバリ、ブリブリ吹きまくる。テナーの低音部分を上手く使いながら、重心の低い疾走感溢れるアドリブ・フレーズをこれでもか、と言わんばかりに吹きまくる。ドラムがリズム・キープに徹している分、テナーのフレーズが前面に押し出て、とても聴き取り易い。
逆にロリンズがことある毎に避け続けた「ピアノ」については、この盤ではリズム&ビートを供給する役割に重きを置いているので、テナーのフレーズの吹き回しとバッティングすることは無い。それが証拠に、エスコービッツのテナーは自由に吹きたい様に吹きまくっている。
我が国ではほとんど無名なブルース・エスコービッツであるが、このロリンズ・トリビュート盤でのテナーは凄い。他のアルバムももちろん聴いたことは無いが、この盤は素晴らしい。これだけ個性的なテナーをバリバリ吹きまくる様を聴けるアルバムはそうそう無い。これ一枚でも十分に満足だ。
これだけ清々しく吹きまくるテナーって、僕のイメージだと、昼下がりのジャズ喫茶で流すのにピッタリじゃあないかと。客もまばらなジャズ喫茶の昼下がりに、こんな「知る人ぞ知る」、これだけ個性的なテナーをバリバリ吹きまくるアルバムを流す。昼過ぎの微睡みを一掃するような爽快盤。良い感じです。
震災から5年11ヶ月。決して忘れない。まだ5年11ヶ月。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから、ずっと復興に協力し続ける。
★Twitterで、松和のマスターが呟く。名称「松和のマスター」でつぶやいております。ユーザー名は「v_matsuwa」。「@v_matsuwa」で検索して下さい。
« 活き活きとしたハンクが躍動する | トップページ | こんなアルバムあったんや・78 »
コメント